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アレだ
夜の11時前に帰宅した。いつものことだが、妻は先に寝ている。結婚して10年、子どもはいない。季節はずれの台風でズブ濡れだ。熱いシャワーを浴び、着替えをすませた。起こしては悪いと、静かに寝室の前まで歩む。
僕は我が耳を疑った。寝室のドアごしに聞こえてくるのは、アレだ。阪神優勝でなく、男女のアレ。
「許さん。叩き斬ってやる。」
僕は言葉とは裏腹に胸がドキドキする。身体が火照る。こっそり、ドアを開けると、自慢の長い黒髪を振り乱し、全裸の妻がベッドで上で首振りダンスをしているではないか。
「流石、我が妻、美しくエロい。」
鼻の下を伸ばした僕だったが、妻の下の男の顔を見た瞬間、怒りに全身が震える。
「てめえ、ふざけんじゃねえ。」
男の顔は僕そっくりだった。生成AIなんかじゃない。ガチで、僕の双子の弟だ。ベッドまで駆け寄り、弟の首を両手で絞め上げる。
「えっ、早くない。接待のはずじゃ。」
間抜けな言葉に、余計、腹が立つ。
「まったく、おまえは昔から俺のものを欲しがるよな,。今日という今日は、許さん。市中引き回しの上、打首、獄・・。」
ガツン
最後まで言うことができずに、床に倒れ込んだ。虎二郎だけは、全裸の妻が後ろから、僕の脳天にカカト落としを決めたのを見ていたのである。
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