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:色褪せた世界
色褪せた世界から、逃げ出す理由がほしかったのだと思う。
自殺ではない死に場所を探していた。
「危ない!」
誰かのためというより、俺自身のため。
崩れてきた瓦礫から見知らぬ少女を庇ったのは、俺の自己満足。
だから、泣かないでくれ。
俺などのために、キミが心を痛める必要などない。
「泣かないで……キミが……無事でよかった……」
人間など嫌いだ。自分も含めて。
だけど、誰かが傷つく姿を見るのは嫌なんだ。
苦しんでほしくない。
それが子供ならばなおさら、笑顔でいてほしい。
そこに自分の居場所などなくても、裏も表も無い無邪気な笑顔は、世界に染まりきらない無垢なその心は、色褪せた世界にしか見えなかった俺の心に、わずかでも色を取り戻してくれていたから。
もしも、神様というものがいるのであれば、この少女が俺などの死を背負って苦しむことがないように……笑顔に戻れる日がくるまで見守って、少女の助けになってほしい。
神様など、いないのかもしれない。
それともこれは、人間という生き物を嫌っていた俺への罰なのか?
多種多様な種族が存在するこの異世界でならば、『普通』という枠すら構築されていないのではないかと淡い期待を抱いてしまった。
けれども傲慢な人間どもは、純粋な人間以外の種族を迫害していた。……いや、人間以外の種族だけではないな。人間の中にも迫害される者が存在するのがこの世界の現状だ。
「もし神がいるのならば、なぜ人間などという生き物を生み出した?」
なぜ、人間だった俺の肉体を『魔王』としてこの世界で再構築した?
「世界にとって害獣にしかならぬ、強欲で傲慢な愚か者ども……」
それを間引くための世界のシステムだと?
愚かな人間を魔王が滅ぼし、世界をリセットする?
「〝リセット〟だ? ふざけるな……」
人間は、愚かで傲慢な生き物かもしれない。
他者の顔色をうかがい、異端と弾かれることを恐れ、周囲に流されるままに行動してしまうような、どうしようもない生き物かもしれないけれど。
それでもこの世界で生きている。
数の暴力に怯え、集団の正義を恐れ、生き残るために周囲に流されてしまう心の弱い生き物だとしても……それでもこの世界で生まれ、生きてきたんだろう?
「駒でも道具でもない! 命ある生き物だ!!」
どうしようもないくらい自己中心的で愚かな人間だっているけれど、その大半は限りある命を懸命に生きようとしている生き物なんだ。
「生き物が、その生存本能を捨ててしまうような世界こそが異常なんだろうがっ!」
再構築された肉体が『魔王』として生み出された理由を記憶していた。
だが……かつては人間だった俺が人間を滅ぼすなど、誰が描いたのかもわからない筋書き通りに行動するなどバカげている。
物語のテンプレだったら、勇者が現れ魔王を倒すところまでが神の描いたシナリオなのか。
だが俺が、それを待つ理由もない。
『魔王』が死ねば、新たな魔王が生まれるだけなのかもしれない。無駄死にに終わる可能性もある。
それでも俺は、誰かが傷つき、苦しむ姿など見たくはないんだ。
鞘から剣を抜く。
人間と体のつくりが同じとは限らないけれど、心臓を貫けば死ねるだろうか?
「死なないでっ!」
思わず動きを止めてしまったのは、その声に、言葉に、聞き覚えがあったからだ。
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