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『辛くても、苦しくても、時に厭わしく思うくらいわずらわされても、それでも守りたいと、大切にしたいと思う。だから……〝愛〟という漢字をあてて〝愛おしい〟と言ったんじゃないのかなぁ?』
本来であれば、親が子に向けるような……見返りを求めない無償の愛情を指して、そう呼んだのだとボクは思うんだ。
深すぎる愛情は憎しみに変わるなんて言う人もいるけれど、それは、時に独占欲、時に嫉妬心……そういった感情とすり替えられてしまった結果だよ。
この世界で魔王として再構築された彼の場合、人間という生き物の善性を信じていたかったからこそ、そうじゃない部分が他の人よりも目について、人間に対して失望してしまった。
けれどね。
『信じる』という感情はね、相手に自分の理想を押し付けることじゃないんだ。キミならば、きっと自分で気付けると思うから、ボクからは伝えない。
相手に自分の理想を押し付けて、それが叶わないと裏切られたと感じたり失望したりするのは自分勝手なわがままなんだ。
相手の気持ちも考えて行動して、相手に伝わる言葉、相手が理解できる言葉を選んで自分の気持ちを伝えなければならないんだから。
たとえそれがすれ違って、空回りしてしまったとしても、許せる心のことを指すのが『信じる』なんだよ。
もしも自分自身が望まない結果がもたらされたとしても、その結果を受け入れることができる者にのみ適用される。信頼関係とは、そんなふうに互いを尊重しあえてこそ成立する感情だから。
相手に伝わる言葉を選んで伝えなければ、相手に自分の気持ちなど伝わらないとキミは知っている。
どんなに言葉を尽くしても、聞く耳を持たない者にその声が届かないことも、相手の気持ちを尊重することの大切さもキミたちは知っている。
だから、きっと大丈夫。
その世界の管理者は変革を望んでいた。
善政を行う国があれば、悪政で人々を苦しめる国もあると理解していた。
だからこそ、キミたちにかけたみたいなんだ。
誰かが傷付き苦しむことを厭い、他者のために涙を流せる優しさを持つ『魔王』と、他者の不幸を願わない『勇者』と『聖女』。
巻き込まれたキミたちにとっては、迷惑でしかないだろうけれどね。
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