:叶えられない願いと……

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ

:叶えられない願いと……

「神様、お願い……」  それすらも、言えなかった。  叶わないとわかっている願いを告げて、それが叶わないことで、あなたを恨みたくはなかったから。  人の心は脆い。  やり場のない怒りを誰かのせいにして、ぶつけてしまうほうが楽なのかもしれないとも思う。  けれど……。  そのあとに残るのは虚しさだ。  余裕のない自分の言葉が、誰かを傷付けてしまった嫌悪感だ。  自分に余裕がなさすぎて、人に優しくできない自分が嫌い。  傷付けたくないのに、傷付けてしまう自分が嫌い。  溢れた言葉は戻らない。  一度放たれた言葉は、言霊となって、意図せず誰かを傷付けている。  〝がんばれ〟が、人によっては重荷になってしまうと知った時に気付かされた。  同じ言葉でも、誰かを癒せることもあれば、傷付けてしまうこともあるのだと。  だから願わない。  叶わないとわかっているそれを願えない。 「この命と引き替えにすれば、あの人は生き返りますか?」  死んだ人間が生き返ることなど、決してない。  失った命は、もう二度と戻らない。  もしも、それが叶うのだとしても、あの人がそれを望まないことなどわかっている。  誰かの命を犠牲にして生き返ることなど、望まないのはわかっている。それでも、もしも叶うならば……そう考えてしまうのは、残された者の弱さゆえ、なのだろう。  あたり前だと思っていた平穏が崩れた時、人は、それがあたり前ではなかったのだと気付く。  失ってから気付いても、もう戻りはしないのに……。  だからこそ、今を精一杯、生きるしかないのかな?  生きている限り、いずれ死ぬ。  それが今日かもしれないし、明日かもしれない。  十年、二十年……もっと先かもしれないけれど。  後悔をしないように生きるのは難しい。  それでも、いつまでも立ち止まってはいられないから、前を見て進むしかないのだろう。  〝もしも〟などと際限なく自問自答を繰り返したところで、その考えかたに囚われ続けているうちは、何も変わりはしないのだと気付いたから。  だけど、今だけは……泣いてもいいですか?  泣くだけ泣いたら、また歩きはじめますから。  涙が弱さゆえだなんて、言わないでください。  ねえ、神様。  叶わない願いは、ここに置いて行きます。  だから……だから、ね。 「神様、お願い! 未来へ向かって歩き出す勇気をください!!」  言葉に出すことで、言霊として、それが力になるのなら。  ほんの少しでもいい。背中を押してください。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!