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:叶えられない願いと……
「神様、お願い……」
それすらも、言えなかった。
叶わないとわかっている願いを告げて、それが叶わないことで、あなたを恨みたくはなかったから。
人の心は脆い。
やり場のない怒りを誰かのせいにして、ぶつけてしまうほうが楽なのかもしれないとも思う。
けれど……。
そのあとに残るのは虚しさだ。
余裕のない自分の言葉が、誰かを傷付けてしまった嫌悪感だ。
自分に余裕がなさすぎて、人に優しくできない自分が嫌い。
傷付けたくないのに、傷付けてしまう自分が嫌い。
溢れた言葉は戻らない。
一度放たれた言葉は、言霊となって、意図せず誰かを傷付けている。
〝がんばれ〟が、人によっては重荷になってしまうと知った時に気付かされた。
同じ言葉でも、誰かを癒せることもあれば、傷付けてしまうこともあるのだと。
だから願わない。
叶わないとわかっているそれを願えない。
「この命と引き替えにすれば、あの人は生き返りますか?」
死んだ人間が生き返ることなど、決してない。
失った命は、もう二度と戻らない。
もしも、それが叶うのだとしても、あの人がそれを望まないことなどわかっている。
誰かの命を犠牲にして生き返ることなど、望まないのはわかっている。それでも、もしも叶うならば……そう考えてしまうのは、残された者の弱さゆえ、なのだろう。
あたり前だと思っていた平穏が崩れた時、人は、それがあたり前ではなかったのだと気付く。
失ってから気付いても、もう戻りはしないのに……。
だからこそ、今を精一杯、生きるしかないのかな?
生きている限り、いずれ死ぬ。
それが今日かもしれないし、明日かもしれない。
十年、二十年……もっと先かもしれないけれど。
後悔をしないように生きるのは難しい。
それでも、いつまでも立ち止まってはいられないから、前を見て進むしかないのだろう。
〝もしも〟などと際限なく自問自答を繰り返したところで、その考えかたに囚われ続けているうちは、何も変わりはしないのだと気付いたから。
だけど、今だけは……泣いてもいいですか?
泣くだけ泣いたら、また歩きはじめますから。
涙が弱さゆえだなんて、言わないでください。
ねえ、神様。
叶わない願いは、ここに置いて行きます。
だから……だから、ね。
「神様、お願い! 未来へ向かって歩き出す勇気をください!!」
言葉に出すことで、言霊として、それが力になるのなら。
ほんの少しでもいい。背中を押してください。
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