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:蔓延する嘘
異世界召喚なんて、ラノベや漫画の世界だけだと思っていた。
「おお、よくぞおいでくださいました。勇者さま、聖女さま」
胡散臭い笑みを浮かべて演技がかったセリフを告げる身分が高そうな者――物語に登場する貴族が着ていそうな衣服を身にまとうその男の周囲には、魔法使いのようにローブを身にまとう者や騎士のように鎧を着て腰元に剣を装備している者の姿もある。
そいつらの値踏みするような視線から隠すように、俺は妹を背に隠すように少し前に出る。
「お兄ちゃん……」
不安そうに俺を呼び、俺の服を掴んでいる妹。
この時の俺は、妹だけでも救いたかった。
……けれどどこかで、選択を間違えてしまったのだろう。
「我々の召喚に応じていただき感謝いたします」
胡散臭い笑みを浮かべて演技がかったセリフを放つこの男は、自らのことをこの国の皇子だと告げ、物語のテンプレのような内容――魔族が人間を滅ぼそうとしていて、それに対抗する戦力として異世界から俺たちを召喚したのだと説明をはじめたんだ。
相手が真実を話しているとは限らない。
インターネット上だって、SNS上だって、フェイクニュースという嘘が蔓延していたくらいだ。
日常生活の中でさえ嘘が蔓延している。
一見談笑しているように見えても、腹の中では何を考えているのかわからないのが人間だ。
己の欲望を満たすためならば、他者を平気で陥れ、犠牲にできるような人間なんてそこらじゅうに溢れている。
詐欺。責任転嫁。名誉毀損。誹謗中傷。
騙すやつが悪いのは言うまでもないが、噂を鵜呑みにして広める者にも責任があると俺は思う。
悪意がなければ何をしても許されるわけではない。己の行動には、己が責任を負うべきなのは当然のことだろう。
なにごとも、嘘である可能性を前提に考え、情報を精査していかなければならない。
噂に踊らされ、流されるままに罪無き者を責め立てることを正義であると勘違いしているのであれば、己の元に届いた噂を広めず、自分自身の目で耳で何重にも情報元を確認してから動く者もいるのだと知ってほしい。そういう者のほうが、人間として立派であると俺は思うんだ。
だから、皇子と名乗ったこの男の話を鵜呑みにするわけにはいかないと……そんな考えが、俺の顔に出てしまっていたのかもしれない。
単純に、俺たち兄妹を召喚した連中から利用価値が無いと判断されただけなのかもしれないけれど。
「俺たちは、勇者でも聖女でもない」
俺たちにだけ見えていたステータス画面の表示を素直に伝える義理もないから嘘をついた。
真偽がどうであれ、戦の道具に仕立てあげられるなどごめんだ。そもそも、一方的に俺たちを召喚し、この世界に拉致した連中の話を信じることなどできるわけがないのだ。
誘拐犯のために命をかけて戦う理由もない。
故郷ですらない異世界には愛着すらないのだから。
「役立たずどもを城から摘まみ出せ!」
もっと頭を使ったら、うまく逃げ出せたのかもしれないけれど……いや、俺にそういう腹の探りあい的なやりとりは無理だ。
俺と妹は、召喚先の異世界で、ラノベや漫画のテンプレのように城から追い出されたんだ。
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