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:本音と真実
皇子と名乗ったあの男に命じられた騎士のような鎧を着ている人たちは、あの男の姿が見えなくなってから「すまない」と私たちに謝っていた。
何に対しての謝罪なのかはわからないけれど、この城で働いているから、上からの命令に逆らえないことに対しての謝罪かな……なんて思っていた私が甘かった。
私たちが城の門を出てすぐ……それは起こった。
「お止めなさい!」
その声が聞こえて振り向いたら、騎士のような鎧を着た人たちが、今にも鞘から剣を抜こうとした状態で動きを止めていたの。
「召喚はお兄さまの独断。あなたたちがその手を汚す理由など何もないわ」
慌てた様子で駆けてきた女の子は、人気のないこの森に繋がる門まで私たちを誘導してきた推定騎士の彼らより立場が上の人らしい。
元いた世界でも滅多に見かけないほどの美少女が、髪も乱れた状態で、息を切らしていて……それでも私たちへと向き直ると深々と頭を下げた。
「この度は、わたくしの兄がとんだご無礼を……申し訳ございませんでした」
この子は悪くない。
けれど、混乱続きで混線している私の思考回路が、ここで殺されそうになっていたことを理解して体が震え出す。
今のところ、この世界で魔族による被害は一部のみで、けれどもそれは、人間にも善人もいれば悪人もいるのと同じようなもので、魔族全てが悪というわけではないこと……推定騎士たちに『姫』と呼ばれた彼女は私たちにこの世界のことを教えてくれているけれど、どうやら私は、もう色々と限界だったらしい。
気がつけば、震える私を優しく抱き締めてくれたお兄ちゃんの胸元を濡らしてしまっていた。
泣いて状況が変わるわけでもないのに、私がこんな状態だと話がまともに進まなくなるかもしれないのに……それでもお兄ちゃんは、私の頭や背中を優しく撫でて私を落ち着かせようとしてくれていて……その優しさに、また涙が溢れてしまう。
「あなたがたのことは、責任を持って城で保護させていただきますわ」
その声に視線だけ彼女へと向ける。
まっすぐに私たちを見据えて告げられた言葉に、浮かべる表情に、嘘は感じられなかった。
「……ありがとうございます」
人間として、この場で彼女にお礼くらい言えないとダメだと思っただけで、形式的に紡いだ言葉に心はこもっていなかったかもしれない。
「だけどごめんなさい。いつ殺されるかわからないなら、どこにいても不安しかないです」
異世界で生き残るためには、差し伸べられる手を掴むことも必要だったのかもしれないけれど……一度植え付けられた恐怖は消えなくて。
こんなことを言いたかったわけじゃないのに、言葉を取り繕う余裕すらなくなっていた。
「……っ、でしたら、せめてこちらをお持ちください。償いにもなりませんが、当面の生活費には、なると思いますので」
姫を追いかけてきたらしいメイドさんに姫が何かを告げて受け取った袋を差し出され、戸惑いながらもお兄ちゃんがそれを受け取って、私たちは、城の門を背に森を進むことにしたの。
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