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木崎圭吾はいつも背中を丸め、ブレザーのポケットに右手を突っ込んでいる。
同級生の彼とは、小学生からの知り合いだ。小学生の頃は互いの家に遊びに言ったりもしたが、今は廊下ですれ違うときに、軽く立ち話するくらいだった。
「――わっ!」
放課後、木崎と学校の廊下ですれ違ったときだった。突然、右腕を引っ張られた。
「なんだよ!」
掴まれた腕を振り払い、よろけながら振り返る。
「え?」
木崎は間の抜けた声を出し、背後に顔を向けた。
「あ、ごめんな、戒田」
彼は僕の顔を見ると、ポケットに突っ込んでいた右手を出して、頭をかく。申し訳無さそうに眉を下げた彼に、僕は握りしめていたこぶしを開いた。
「いや、怒ってるわけじゃないけど、なにか用か?」
「別に、なにも……」
歯切れが悪く答えた彼は、居心地が悪そうに視線を彷徨わせている。
そういえば、木崎は最近、バスケ部をやめたと聞いた。最近はぼんやりな性格にも拍車がかかり、教師に怒鳴られる姿も何度か見かけた。
まじめな彼のことだ。なにか、心配事でもあるのかもしれない。
「ほんとにごめんな、戒田」
木崎は右手で頭を掻きながら、再び謝罪の言葉を口にする。
「お前大丈夫か? ひまだし、悩みごとなら聞くけど?」
そう言って、僕は木崎の右隣に立った。
「いたっーー」
彼を励まそうと、背中を叩いた時だった。急にわき腹を強く小突かれ、僕はわき腹をおさえた。
「やっぱりお前、喧嘩売ってるだろ!」
苛立ちを込めて、僕は木崎を怒鳴りつけた。ぼんやりとした彼の目が、真ん丸に見開かれる。
僕のわき腹を殴ったであろう右手は、彼の頭にあった。そういえば、彼の右隣に並んだ時から、彼はずっと右手を頭に当てていた。
(じゃあ一体、誰が?)
僕はとっさに視線を下げた。丁度わき腹の高さ、木崎のブレザーのポケットに目が留まる。紺色のブレザーのポケットから、青白い管のようなものがのぞいていた。
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