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「驚いてポケットから手を引き抜いたら、そこから白い指がのぞいててさ。怖くなってブレザーを脱ぎ捨たんだけど、制服がないと困るだろ? 気味が悪いと思ったけど、その日はブレザーを抱えて帰ったんだ」  どうやら、木崎と「彼女」のなれそめを語ってくれるらしい。 「それから、制服は捨てられないし、気味は悪いしで、なるべくポケットに手を入れないようにしてたんだけど」 「お前、ポケットに右手を入れるのがクセだもんな」  僕が言うと、なぜか木崎は、照れくさそうに頭をかいた。  彼の右手の親指には、大きなホクロが3つある。子供のころは、たまに同級生から、ホクロをからかわれていたのを覚えている。それから、彼は右手を隠すようにポケットに突っ込むようになった。 「落ち込むたび、ポケットに手を入れるとさ。彼女の指先が、僕の手を慰めるみたいに撫でるんだ」  木崎の仄かに赤く染まった頬を見て、ぼくはなんとなく事態を把握した。  知らないうちに、彼はポケットの中で愛を育んでいたらしい。 「それでお前、体育の時間でも、部活でも、ブレザーを脱がなかったのか」  彼の様子がおかしいことは、周囲の噂や彼の行動で知っていた。  最近の彼は、学校でブレザーを絶対に脱がなかった。背中を丸め、四六時中ポケットに手を入れた彼を、僕も心配していた。 「ポケットから手を出すと、彼女がさみしがるから」 「恋愛がすべてじゃないぞ、木崎。ちゃんと自分の生活も大切にしないと、あほになるぞ」  そう言うと、僕は彼の右隣に並んだ。僕の言葉が気に入らなかったのか、再び、わき腹を彼女に小突かれる。木崎に変なことを吹き込むなと、警告しているようだ。 「いてて」  鈍い痛みにうずくまると、木崎は慌てて「ごめん」と謝り、僕の肩を抱いた。  相変わらず、彼は気が優しい。その優しさに、つけ込まれているのではないかと、心配になる。
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