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 木崎の欠席を知ったとき、脳裏によぎったのは「彼女」のことだった。急に不安になり、放課後、僕は木崎の家に向かった。 「よお、戒田。久しぶり」  僕の心配をよそに、彼はベッドの上で胡坐をかいて、のんきに微笑んでいた。  小学生の頃に何度か彼の家に来たことはあるが、最近は全くない。勉強机とベッド、本棚があるだけの部屋を見回し、僕は彼の隣に座った。  相変わらず飾り気のない部屋の中で、彼は不自然にブレザーを着ている。 「お前、大丈夫か?」  僕が尋ねると、彼は左手で頭をかいた。右手はブレザーに入れたままで、その中に彼女がいるのかも分からない。 「うん、まあ」  歯切れの悪い返事はいつものことだが、はさっきから木崎は視線を合わそうとしない。  なにかある。僕が確信したとき、ようやく彼は重たい口を開いた。 「……実は、彼女が手を離してくれなくて」  彼は右手を入れたポケットに、視線を落とした。 「ポケットから、手を出せないってことか?」 「ずっと利き手を握られたままだと、さすがになにもできなくて」  また、木崎は眉を下げて笑った。  笑っている場合ではない。僕は木崎の右手を掴んで引っ張ってみるが、びくともしない。  確かに、ポケットの中から引っ張り返されているような感覚がある。 「彼女、俺と離れるのが嫌みたいでさ。ずっと一緒にいたいなんて言われたら、拒絶できなくて」  そんな束縛彼女、お前のためにも今すぐ別れろ。このままだと、木崎は一生、制服を着たまま、学校にも行けない。 「おい、木崎の手を離せ!」  僕は両手で木崎の右腕をひっつかみ、渾身の力で引っ張った。 「束縛もいい加減にしろ! こいつの人生をめちゃくちゃにする気かよ!」 「おい、そこまで言わなくても」 「お前は黙ってろ! 僕は今、このポケットの中にいるやつと話してるんだ」  ぎゅうぎゅうと木崎の腕を引っ張るが、ポケットから手が抜ける気配はない。あの細くて青白い手とは思えない、馬鹿力だ。
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