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「――ほら、さっさと木崎の手を離せ!」
ベッドから降りて足を踏ん張り、僕は木崎の腕を引っ張り続ける。それに抵抗するように、彼の手がポケットに引きずり込まれていく。
「痛い! 痛い!」
木崎の悲鳴のような声が、部屋に響く。視線を落とすと、すでに彼の腕が、半分近くポケットに飲み込まれていた。
「やめてくれ! このままだと、手がちぎれる」
痛みに耐えられなくなったのか、木崎は僕を突き飛ばした。
僕はしりもちをつき、ベッドに目を向けた。彼の手は、ポケットと繋がったままだ。それどころか、すでに二の腕まで、ポケットに引きずりこまれている。
二の腕から右肩、首、顔、左肩、胴体ーー、小さなポケットに、みるみると彼の巨体が呑み込まれていく。
「木崎!」
あっけにとられていた僕は、ようやく我に返り、立ち上がる。
そのときには、すでに彼の足の指が、ポケットに飲み込まれるところだった。
いったい、どうやって飲み込んだのか。ベッドに残ったのは、ブレザーのポケットだけだった。
僕は恐る恐るポケットを拾い、中を覗き込む。
「わっ!」
突然、ポケットから何かが飛び出してきた。驚いた僕は、ポケットを投げ出した。
ごとっと、床に何かが落ちて、視線を下げる。床を見ると、手首からちぎれたような手が落ちていた。
親指に、大きな3つのホクロがある。
木崎の右手だ。
驚いた僕は、逃げるように彼の家を飛び出したのだった。
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