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柏木菜名は、窓から救急車を見送り、茫然自失の親友が学校から警察官に連れていかれるまで、一言も発することなく、ただ教室の椅子に座り続けていた。
とにかく、一旦生徒は家に帰るよう命じられ、菜名は一人で学校を後にした。
菜名は自宅に向かって歩いていたが、途中から町中にある公園に軌道を変えた。
そして、公園に着くと、ある人物が木のベンチに座って、菜名を待っていた。
茶髪のロン毛を軽く束ね、両耳には金のピアスが三つずつ、細い眉の鋭い目付きの男だった。
素行不良で評判の、同級生、青柳 行人で、親友も知らない菜名の彼氏だ。
菜名は行人の隣に座り、公園の様子をさりげなく観察した。
ベンチから遠く離れた砂場で、小さな子どもが二人、山を作っている。
その傍で母親らしき女性が二人、お喋りに夢中だ。
他には誰もいない。
菜名はフッと笑って、
「あんなに上手くいくなんて……」と微笑を浮かべた。
行人も
「だな。あの女一生頑張ってもマジシャンになんかなれねぇよ。俺のかけたマジックに気付かないんだからな」と小声でせせら笑った。
菜名も笑いながら、
「あんたの手癖の方が凄いじゃん。さすがスリの名手」
とこっそり行人に耳打ちした。
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