翔太side執着※

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翔太side執着※

 隣で屈託なく笑う及川真人(まひと)は俺の親友だ。物心ついた頃から空気を読み合って、スマートに振る舞うのが当たり前だった俺の人間関係に、新しい何かを持ち込んだのがこの男だった。 中肉中背ながらバランスの良い身体は、高校時代は水泳部だと聞けばなるほどと頷けた。黒めがちな一重の目は、通った鼻筋と相まって、黙っていれば整った顔なんだろうが、いつも破顔して馬鹿な事ばかり言って笑っているので人好きするタイプだ。 それに考えている事など丸わかりで裏表のない真人は、見かけとのギャップもあって、直ぐに俺のお気に入りになった。  サークルが一緒だったので、俺は真人を親友呼びして周囲を牽制した。真人にちょっかいをかける女子たちには、自ら秋波を送り俺に関心を向けさせて、真人に手を出させない様にしたんだ。 そんな労力も厭わないほど、この真っ直ぐで単純な真人を側に置いておきたかった。自分でも妙な執着を感じる事に戸惑いを感じていたものの、実際真人の隣は居心地が良くて、以前はお盛んだった女達との戯れもすっかり興味が無くなっていた。 目を丸くしていちいち俺の話に喜んでくれる真人と一緒につるんでいるだけで、十分満足していたんだ。  そんな真人が半年前から秘密めいた空気を出して来ているのに、側にいる俺が気づかないわけがない。時々ぼんやりとして、声を掛けると慌てた様に取り繕う真人に苛立ちさえ感じていた。 でも普段開けっぴろげな真人が、決してその事を言ってこない事に、その抱えた何かの深刻さを感じない訳にいかなかった。 それに、黙ってぼんやりしている真人の横顔が、時々ゾクゾクするほど綺麗で儚げに感じる自分にも正直戸惑っていた。あいつは男だと、何度も自分に言い聞かせていたのに、気づけばまるで彼氏面して面倒を見てしまう。  そんな俺たちの距離感を、サークルの女子達もまた暗黙の了解で殊更推して来ていたのだから、俺たちの二人行動は増すばかりだった。その頃には俺も開き直って、日を追うごとにひと目を惹く様になっていく親友をいつでも俺の手の届く範囲に置いていた。 真人のスケジュールも、多分本人以上に俺の方が把握していただろうけど、流石にそれは俺にもやり過ぎだと感じていたので知らないふりをしていた。 真人の話に出てくる気になる相手と言えば、仲が良いお姉さんぐらいのもので、あいつの女っ気がない事に満足していたし、男は俺が一番側にいたから心配は何も無かった。  時々一人になると、なぜ真人にこんなにも執着してしまうのかと苦笑してしまう。独占したいと思うその発端が何から来ているのか、深く考えるのは不味いと自分でも気づいていた。 実際こんな独占欲は初めてだった。俺は今までの恋愛でものめり込んだ事などなかったし、大抵は彼女達からの『私の事本当に好きなの?』と言う決まり文句で簡単に別れてきた。 だからもし真人が『俺のことめちゃくちゃ好きだな、お前。』と揶揄ってきたら、真顔で『ああ、好きだけど。』って返すだろうから、つまりはそう言うことなんだろう。  でも真人は案外そう言う事を言いそうで言わないので、つけ込む隙が無かったし、日を追うごとに肌艶が良くなって、体臭まで甘い気がしてきた時には、俺は指先がウズウズして押さえるのが難しくなっていた。 だからこの親友との関係を壊したくなかった俺は、年始年末は少し頭を冷やそうと真人と距離を取った。お陰で俺は真人で自分を慰めるハメになったし、頭を冷やすどころか、俺の独占欲は最早自分でも誤魔化しが効かないところまで来てしまっていた。  今夜のサークルの飲み会で、久しぶりに会った真人がキラキラして見えたのは俺だけじゃなかった。周囲も何となく気になるのか、女子達より男子達が何気に真人の方へ視線を送るのが、気になってしょうがなかった。 いつもの様に彼氏面して飲み会から連れ出せば、真人が口を尖らせながら俺に文句を言うのも何だか可愛くてニコニコしてしまう。アパートに送ると、妙に帰らせたがる真人に、部屋の中に誰かの痕跡があるのかと焦って目を走らせたけれど、何もなかったからホッとした。  俺は勿論真人不足で、泊まって行く気満々だった。真人を風呂へ押し込むと、あちこち家探ししてしまったのは内緒だ。シャンプーが終わったのに何だか動きがなくて、酔っていたから心配になって風呂場のドアに近づくと、思わず息を止めた。 途切れ途切れに聞こえる真人の甘いため息にズクリと股間が反応して、俺は思わずズボンを押さえながらさらに耳をそば立てた。シルエットと音が、それは普通の男のする一人遊びではないと分かった時の俺の気持ちは、舞い上がるそれだったか? 俺はその時真人を手に入れる理由を手にしたんだから。  「…そう言う事だよ。」 真人がカミングアウトしたは驚くべき事だったけれど、喜びを顔に出さない様にするのが大変なくらいだった。俺は以前から都市伝説が好きで、気になる事案は自分でも更にあちこち検索して調べるくらいだった。 だから“オメガ症候群”は知識があったし、まさかその当事者が真人だなんて俺にはご褒美極まりない。 男でオメガ症候群になったら、その名前通りに後ろが疼いてそっちでしたくなると言うのが通説だった。医者がそのプライバシーに関わる様な事まで教えるとは思えないが、都市伝説ではそこら辺が話題の大きな部分ではある。  真人もそれを知ってるよな?シャワーでしてた一人行為は、後ろが疼くせいだろうし。 そう考えてしまえば、真人の処置を手伝うと言う言い訳を使って、俺は遠慮なく真人を手に入れる事にしたんだ。だから張り詰め始めた股間を誤魔化すためにもさっさと風呂に入った。 さっき目に焼き付けた真人が全裸になるところや、風呂上がりの真人を抱き寄せた時の感触や可愛らしさを思い出しながら、俺は一人でさっさと抜いた。そうでもしなければ、俺の興奮に真人が戸惑ってしまうだろう。 「俺、やばいな…。」  少し罪悪感を感じながらも、俺はのぼせそうな身体に冷たいシャワーを浴びせた。これから真人をその気にさせなくちゃいけないから、いつも通りにしないと。 少し落ち着いた股間を見下ろしながら、俺はホッとして鼻歌さえ出そうな勢いで部屋に戻った。予想に反して真人はベッドに潜り込んでいる。さっき俺が手伝うと言ったらかなり動揺してたから、どうして良いか分からないんだろう。 そんな経験値が少ないところも、真人の可愛いところだ。  でも真人が実際どれだけ悩んだかしれないと思うと、優しくしたくなった。無理強いもしたく無かった。すると真人はガバリと跳ね起きて、決心した様に試すと言った。 相変わらず心配になる程チョロい真人の決心が鈍らないうちに、俺は真人に服を脱ぐ様に指示するとタオルを取りに立ち上がった。ちょっとポカンとした真人が可愛いくて、後ろを向いてこっそり笑った。 バスタオルを敷き込むと、不貞腐れた様に真人が慣れてるって言ったけど、それって俺の経験値に嫉妬してるのか?それとも過去の相手に?そっちなら嬉しいけど。  下半身丸出しで準備万端な真人の素直さに、俺は愛しい気持ちが湧き上がってきた。ああ、心配になるくらい俺の言いなりだ。やっぱり他の人間は近づけたらダメだな。 ベッドに横になって抱き寄せると、やっぱり俺の腕の中で収まりが良い真人は俺の好きな匂いがした。男同士でこんな風に感じるなんて、よっぽど相性が良いんだ。 今まで男は経験が無いけど、真人を好きになってから、そっち方面の勉強はしっかりしてある。実際性別なんて大きな理由じゃ無いのかもしれない。好きな相手なら抱き合ってしたいと思う、それだけの事だ。  手を伸ばして露出した真人のお尻に指を這わすと、意外な程弾力があって驚いた。見た目より柔らかい。そしてなめらかだ。俺はすっかり夢中になったけれど、決して真人を怖がらせない様に喋り続けた。 俺のしているのはあくまでも協力で、真人の願いに沿わないといけない。指を割れ目の間に伸ばすと、ぬるぬると滑りが良い。これがいわゆる分泌なら、男同士で必要な潤滑ジェルなど必要なさそうだ。 優しく際どい場所を撫で回していると、我慢できないのか途切れ途切れに甘く呻く。それはどんな媚薬よりも俺に効く。ああ、参った。  俺は試しに真人の中へと指をゆっくり押し込んだ。自分でもしているせいなのか、案外すんなり俺の指を飲み込むその場所は、温かで動かす度にグチグチと卑猥な音がした。 その時真人が足を持ち上げて俺の身体に巻きつけると、ねだる様に俺に囁いた。 『翔太、…もっと奥。』って。俺はカッとなって、バカみたいに血流を股間に集めたに違いない。こんなに痛いくらい張り詰めたのは経験が無かった。同時に真人の竿もさっきより硬くなって俺の腹に触れているのを感じた。  俺はなるべく自分の猛り切ったブツを真人には知られない様に腰を引きながら、手を伸ばして真人を腹の上に引き寄せた。こうすればもっと奥まで可愛がってやれる。 可愛い胸も触れたかったけれど、あまり欲張って怖がらせたくは無かった。 俺は深呼吸しながら、ゆっくりと真人の中を撫で摩った。グッと奥へ突き挿れると、少し膨らんだ場所があった。男同士でするために大事な快感の場所だと勉強済みのそこに、優しく指の腹を押し付けて震わせると、真人はビクビクと震えて、甘い声を出した。  「あっ!んん…。待ってっ…!」 目を閉じた真人の顔にキスしたいのに、まだそのタイミングじゃないなんて切ないにも程がある。俺は真人の弱い耳の近くで甘く励ましの言葉を囁きながら、容赦なく指を休ませる事なく掻き混ぜ続けた。 さっきよりも滴り落ちる分泌液に便乗して、俺はそっと指を増やした。真人が苦しまない様にゆっくり慣らそうと、殊更ゆっくり動かしていると、焦れたのか真人が俺から離れて足を抱えた。  目の前に曝け出された真人の卑猥な窄みは、間接照明に照らされた部屋の中でぬらぬらと光っていた。俺の指を二本易々と呑み込んでいる眺めに、俺の股間は張り詰めて痛いほどだ。 この中に俺の竿を押し込んで擦り上げてやりたい。そんな乱暴な欲望が溢れ出して止まらない。しかも勿論真人の持ち物もすっかり興奮して、臍に向かって天を仰いでいる。何てエロいんだ。 俺は思わずその赤らんだ形の良いそれを口に咥えた。男のモノを口に入れた事などないけれど、真人のものだと思うと何の躊躇もなかった。  「え!翔太、待って!ああっ、気持ち良すぎるよ、待って…!」 言葉とは裏腹に、真人は掠れた声で甘く喘いだ。そんな風に俺の名前を呼ばれたら止まれないって。 「まだ疼く?真人が勃ち過ぎて痛そうだったから…。」 俺はそう言って口元を拭うと、赤らんだ顔で俺を見下す真人の中の指を更に増やした。俺のものをここに挿れるには、もう少し拡げないと無理だ。 途端に目を見開く真人の中を、俺はブルブルと指を振動させて快感を煽りながら、伸び上がって近づいた。そろそろキスしても大丈夫だろうか。  「真人、もっと気持ち良くなったら、早く疼きも解消出来るはずだよ。キス…しようか?凄く気持ちいいから。」 すると、俺のもたらす刺激に身体をくねらせながら、真人は俺の肩に手を伸ばした。ああ、ダメ元で言ってみて良かった。 初めて触れる真人の唇は、想像よりもずっとえっちで甘かった。好きな相手とのキスがこんなに高まるとは思わなかった。俺が今までしてきたのは、本気のキスじゃなかったのだろうか。 時々指をねだる様に締め付けてくるので、俺はどちらに集中したらいいのか迷う位だった。  俺は一気に指を引き抜くと、真人を抱き寄せて口の中を舌でなぞった。最初は戸惑う様に俺にされるがままだった真人も、俺の真似をして舌を伸ばし始めた。 ああ、こんなキスならずっとしていたい。俺は自分の痛みさえ覚える股間を真人に食い込ませながら、口の中の粘膜を舌でなぞった。お互いに触れる舌を撫で合いながら、閉じた瞼を開けた。 もう疼きの解消だとか、そんな言い訳などとっくに手放してしまっている。真人が同じ様に目を開けて見つめ合った時、俺たちはその事に気づいてしまった。  俺は真人が欲しくて、多分真人も俺を欲しい、筈だ。      
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