協力

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協力

 翔太はいつも柔らかく笑っている事が多いけど、こんな風に真顔で向き合う時はとても頑固になる。そう、俺の誤魔化しなんてまるで通用しないくらい。 俺はここで嘘っぽい誤魔化しをして、呆れ果てた翔太に見限られるか、正直に事情を話して理解を求めるか二つに一つしか道が残されてなかった。 正直、あいつの嫌いな嘘で誤魔化すのも可能ではあった。けれどもすっかり心許している翔太はそれを許さないだろう。俺は苦笑して、ため息ひとつ残してクローゼットへ向かいながら翔太に声を掛けた。    「事情は話すから、服くらい着させてくれるだろ?」 俺は翔太の視線を感じながら引き出しから出した下着に足を突っ込むと、スエットを着込んだ。ああ、おりものシートが装着できないけど、流石に今は無理だ。 さっさと話を終わらせて帰ってもらおう。 俺が向き直ると、なぜか緊張感を滲ませた翔太が俺をベッドの隣に座るように呼んだ。そこ、俺のベッドだけどな…。床に座るには翔太はガタイが良いから、基本いつもベッドに座ってる。  「…で?事情って何だ?真人がさっき風呂場でしてた事と関係あるのか?」 うわー、いきなり核心に触れて来たし。翔太って大学では柔らかいけど、俺の前では案外強引だし、グイグイ来るよな。チラッとそんな事を考えて翔太を横目で見たけれど、俺が話をしなくちゃダメなんだよね? 「…ああ。俺の事情はうちの姉貴しか知らないんだ。親にもちょっとびっくりさせちゃいそうで話せなくて。あのさ、今からいう事嘘っぽいけど、マジで本当のことだから。 俺、お前に信じてもらえないとちょっと凹むと思うから、そこだけ気をつけて?な?あと、秘密にして。約束できる?」  翔太は目を丸くしていたけど、クスッと笑って俺の髪をぐしゃぐしゃにして言った。 「ああ。任せてくれよ。真人の言うことは信じる。それに誰にも言わない。俺たち親友だろ?」 それから俺は決意して自分の身体に起きた事をざっくり話した。病院での検査とか症候群の事とか。 翔太はテーブルの方を見つめながら、いちいち頷きながらも黙って聞いていた。俺も目を合わせてたら話し辛かったから、それは助かった。でも翔太が何を考えているのかは全然読み取れなかったけどな。  「…って事なんだ。俺もまさか自分が都市伝説の当事者になるなんて思わなかったから最初は随分凹んださ。でも姉貴に死ぬわけじゃないって笑い飛ばされてさ。それもそうかって。まぁ色々めんどくさい事とかあるけど、慣れればどうって事ない。」 そう言い終わると、翔太はこちらを向いて俺をそっと抱き寄せた。その仕草があまりにも自然で、俺は抵抗もせず翔太の腕の中にすっぽりと入ってしまった。なんだ、こいつって思いの外ガタイ良いんだな。 それから俺の耳元で、優しい声で翔太は囁いた。  「そんな事があったら、誰だって動揺する。悪かった、気付けなくって。もっと早く言ってくれたら、俺に出来ることあったんじゃないか?これからは一人で悩まずに、俺に何でも話してくれ。 …俺が出来ることなら何でもするから。」 俺は翔太の体温と優しい声に癒されて、少し感傷的な気持ちにもなって、鼻の奥がつんとした。まったく、泣かせるぜ、このイケメンが。けれども同時に耳元で囁かれて、場違い極まりないゾクゾクとした感じが背中を走った。…俺耳が弱いのかもしれない。  ぎこちなく翔太を押し返して、俺は自分の身体が例によって危機的状況に変化して来たのを感じていた。早くこいつを追い帰してシートを貼り付けないと! ぎゅっと締め付けているのにも限界が来る。気を緩めたら下着を汚してしまいそうだった。 「まぁ、そう言う事だから。翔太が俺の状況を知っててくれるってだけでも随分心強いぜ。…あのさ、結構遅くなっただろ?もう帰った方が良くない?わざわざ終電で帰る事ないし。な?」   けれどもこの俺のやんわり帰宅作戦は、翔太の口から飛び出した言葉で見事玉砕してしまった。 「…あのさ、まだ話終わってないと思うんだけど。肝心の部分がさ。…真人がさっき風呂場でしてた事って、そのオメガ症候群と関係あるんだろ?どう言う事なのか説明してよ。」 また真顔に戻った翔太は、俺から真実を聞くまでテコでも動かない空気を醸し出していた。こいつがスマートなのは認めるけど、本性はどっちかと言うと女子が思ってるよりずっと手強くて面倒くさい。  俺は早く帰ってもらいたい一心で、さっさと秘密を開示することを選んだ。 「…オメガ症候群になると色々症状があるんだ。さっきチラッと話した腸壁からの分泌液だけど、あれもほとんどない時と、結構多い時との周期みたいのがあって、多い時期はなんて言うか…。 ムラムラするって言うか、疼くから処理しなきゃってこと。さっきは酔っ払ってたから、お前がいるのすっかり忘れていつもみたいにやっちゃっただけ。以上!」  俺はすっかりヤケになって赤裸々な事をぶちまけた。流石に恥ずかしい。すると翔太がポツリと俺の首元を見つめながら呟いた。 「見せて。」 ん?今なんて言った?俺が聞き間違いかと翔太をじっと見つめていると、翔太がにっこり微笑んで俺と目を合わせて言った。 「さっき、俺邪魔しただろ?結局まだスッキリはしてないんじゃない?それにオメガ症候群の症状なら、もっとしっかり処置しないとムラムラが続くんじゃないの? ムラムラすると分泌も増えるんなら、分泌を抑えるためにもムラムラ解消したほうがいいよ。」  俺は翔太の言ってる意味がいまいち分からなくて首を傾げた。 「…お前、なんかオメガ症候群の事詳しいな。」 すると翔太は苦笑して、俺の手を両手で握った。 「俺が都市伝説マニアだって忘れちゃった?俺はオメガ症候群ってのは、あまり公表されてないけど実際にある症状だって事は知識として持ってたんだ。 まさか真人がそうだったとは思いもしなかったけど、ここ半年の真人の変化はそう言われてみれば凄く当てはまるんだ。俺に真人の悩みを解決するの手伝わせてよ。一人でやるより、きっと良い結果になると思う。」  翔太が真面目に俺のために何かをしようと言っているのは理解した。でも具体的に何をしようって言ってるのかな。俺は再び首を傾げた。 「確かに翔太は都市伝説には目がなかったよな…。て言うか、お前は結局どうしようって言ってる訳?いまいち良く分かんないんだけど。」 すると翔太は何でもない様に言った。 「ああ、俺が真人の疼きを処置するのを手伝うって言ってるだけだよ。多分、自分でやるのと誰かにやってもらうのじゃ、全然処理の完成度が違うだろ?実際届かないでしょ?」  俺は翔太が言わんとしている事に気づいて、あわあわと口を開け閉めした。翔太がさっき風呂場で俺がしていたみたいな事してくれるって事だよな? 「ダメダメ!恥ずかしすぎる!無理だって!」 すると眉を顰めた翔太が、俺に言った。 「でも絶対体勢的に自分じゃ出来ることに限界あるだろう?それって疼きを上手く解消できないって事なんじゃないか?分泌も減らないし、結局生活に支障出て困るのは真人だろう?」  うっ、まるで俺の日常を見られたかの様なその言いぐさに、俺は黙ってしまった。風呂場での処置は、もう指では限界を感じていたのは確かだった。いっそ何か道具を使用すべきかと考え始めていたけれど、決心がつかなかった。 何かを挿れるなんて怖いじゃん。 その一瞬の躊躇いに、翔太は立ち上がると着ていたニットを脱いで、風呂場に向かって歩き出した。 「俺、今日泊まってく。風呂入らせて。」  そう言ってテキパキと全裸になると、バタンと風呂場に入ってしまった。俺は呆然とそれを眺めながら、今はシャワーの音を聞きながらベッドに座り込んでいた。 ああ、今のうちにシート貼らなくちゃ。でもこれから翔太が処置するって言ったから、貼る必要ない?え?どう言うこと?俺は思考回路がパンク寸前だった。 翔太は俺の症状を和らげようとしてくれている。親友だから。俺が困っているのを見逃せないんだな。でも凄い恥ずかしい気がするんだけど。親友とはいえ、他人のケツの穴に指入れるって簡単じゃないだろ?入れられる方もだけど。 …あいつああ見えて、酔ってるのかもしれないな。きっとそうだ。なるほど。  俺はとりあえずトイレでシートを貼った。少し下着に染みが出来ていたけど、明日の朝着替えれば大丈夫そうだ。確かに分泌が多いってめんどいな。それは翔太の言う通り日常における支障のひとつだな。 冷静になろうと部屋をウロウロしながら、それでも翔太用のバスタオルや、着替えを用意して気を紛らわせていた。 シャワーの音が止んで、俺は慌ててベッドへと潜り込んだ。キイと風呂場の折れ扉が開く音が響いて、俺は一気にドキドキして来た。これから何がどうなるんだろう。本当にあいつ処置なるものをする気なんだろうか。  タオルで身体を拭く気配がして、俺の出した新しい下着と着替えを身につけている様だった。…良かった。全裸で来たらどうしようかと思った。 俺の心臓はさっきよりも鼓動を速めて、何でここまで緊張しているのかもはや理由さえも分からなくなっていた。 ベッドが軋む音がして、翔太の優しい声が聞こえた。 「あのさ、俺は無理強いするつもりはないからな?ただ真人が今より楽になればいいと思ってるだけだから。どうする?試してみる?俺はお前のためにやってやりたいけど。」  翔太にそこまで言われたら、俺も男気のある所を見せなきゃいけない気がした。だからガバッとベッドから起き上がって言ったんだ。 「…分かった。試してみたい。」 ってね。でもさ、言ったもののどうして良いかなんて全然分からない。俺はそっち方面の経験を積む前にこんな病気に罹ってしまったから、ノウハウが無いんだ。 すると翔太が俺にテキパキと指示を出した。 「じゃあ、取り敢えずズボンと下着脱ごうか。タオルも敷いた方がいい?ちょっと持ってくるね。」  …何か思っていたのと違う。まぁあれくらい普通な感じの方がいいか。俺は言われた様に何も考えない様にしてササっと下着ごとスエットズボンを脱いで、ベッドから放り出した。 楽しげな翔太は洗面所からバスタオルを持ってくると、布団を捲ってテキパキと敷き込んだ。 「…なんか慣れてるな。」 すると翔太は意味深に微笑んで、俺に言った。 「いきなりケツ突き出せってのも無理だと思うから、俺に任せてもらって良い?」 俺はもういっぱいいっぱいだったので、無言で頷くとベッドの上で横たわって翔太に抱き寄せられた。しかし自分だけ下半身丸出しとかどんな罰ゲームなんだ。  翔太は俺の首元に顔を寄せて、伸ばした両手で俺のお尻を撫でた。 「真人が嫌な事はしないから。真人のお尻、柔らかい良い筋肉だな。それもオメガ症候群と関係ある?水泳部ってもっと筋肉硬いだろ?」 優しく耳元で囁かれて、俺はくすぐったいやら、ゾクゾクするやらでもう既に涙目だった。しかもお尻の方だけじゃなくて前の方まで疼いてくる。 ピタリとお尻の際どい部分に指が当てられて、俺はハッとした。 「なるほど。まるで濡れてるみたいだな。これなら痛く無いかも。」  俺が何か言う前に、翔太の指先は躊躇なく俺の疼く場所を繰り返し滑り撫でていく。俺は自分じゃ感じなかった妙な気持ち良さに思わず甘く呻いた。 「痛くない?良かった。」 やっぱり返事など待たずに、翔太はその這い回る指を、更に深く(うず)めた。その時俺が感じたのは何だった?俺はいつも以上にグチグチ聞こえるいやらしい音と翔太の指の動きでもたらされる快感にすっかり興奮してしまっていた。 めちゃくちゃ気持ち良い…! だからもっと奥に翔太の指が届く様に片足を上げて、協力してしまったのも無意識だった。翔太に懇願したのも。  「翔太、もっと奥…!」
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