簡単に『好き』を出すな

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「おい、手を労えと――」 「指先は使っていないので大丈夫です。少しでもシショーの役に立ちたいです」  ライナスが朗らかに笑う。顔が無駄に良過ぎて眩しい。周りにいる主婦たちから感嘆のため息が聞こえてくる。  明るくて顔が良くて根性あり。モテるだろう。男女問わずで選びたい放題だろ。なぜ俺を選ぶ? ライナスの好みが残念だ。  内心ざわつきを覚えながら、俺は「痛くないなら頼む」と言って店を出た。  夕食は言った通り、俺が作った。キャベツともやしと長ネギ、豚バラ肉を使った野菜炒め。インスタントの味噌汁。近所の米屋で買った今年の新米。  適当に作った日常の食事。それを居間のこたつテーブルに並べれば、ライナスが表情を輝かせた。 「美味しそうです! カツミさんの料理、嬉しいです」 「大したものじゃない。まあ食え」  俺に促され、ライナスは手を合わせて「いただきます」と口にしてから料理を食べる。ひと口ひと口、心から美味しそうに食すライナスを見ていると、今日の料理は会心の出来だったのかと思いそうになる。  だが、いざ口に入れてみれば俺の日常の味。不味くはないが、口にする度に歓喜するほど美味な訳じゃない。食事が進むほどに疑問が膨らんで、思わず俺はライナスに尋ねてしまった。
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