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プロローグ
「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」
目の前の英国青年が、澄んだ青い目も華やかな顔もまばゆい金髪も、ありとあらゆる部分をキラキラさせながら俺――幸正克己に告げてくる。
もう何度となくコイツに言われたこと。だが、何度言われたとしても慣れない。
お前なあ……いい加減、正気に戻れ。
ミューズってお前、なぜ女神なんだ? 俺は男だぞ? 芸術の神で男ならアポロンじゃないのか?
そもそも四十路男の俺を、そんな大層なものにしないでくれ。
俺は限界集落でひっそりと漆芸を営むだけの、塗りしか能のない男だ。しかも手入れ皆無のボサボサ髪に、目を合わせた瞬間に子どもがギャン泣きする顔つきの悪さ。そんな男にたとえられたらミューズが号泣するだろうが。
むしろ眩しい陽のオーラをキラキラと放ちまくっているお前のほうが、俺よりもその称号が相応しいんじゃないのか?
ああ、まったく調子が狂う。
色々とツッコみ所が多すぎて、何を言えばいいのか分からなくなってくる。
盲目的で思い込みが強すぎるコイツに、何を言っても聞かないだろう。
それでも、これだけはハッキリと言っておきたい。
「おっさんにミューズはないだろ……っ!」
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