簡単に『好き』を出すな

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「そんなに美味いか?」 「美味しいです。今まで食べた料理の中で一番好きです!」 「お、大袈裟な……」 「家庭の味に、憧れてましたから」  明るい笑みを浮かべたまま、ライナスの表情が翳る。 「ワタシの家族、料理を作りませんでした。料理を温めることすら嫌がっていました。だから料理に温度がある。それだけで嬉しくなります」  敢えて聞かなかったライナスの過去が覗く。料理の温度で喜べるなんて、どんな幼少期を送ってきたんだ?  気になったが深入りしないと心に決めている。俺は素っ気なく「そうか」と話を区切り肉を頬張る。そんな俺をライナスが目を瞬かせて見つめてくる。  ――フッ、と。口元は微笑みながら、青い目が潤んだ。 「やっぱりカツミさん、好きです。変に同情しない。嬉しいです」  んぐっ。危うく俺はメシを吹き出しそうになった。 「ゲホッ、おま、食事中にいきなり言うな!」 「あ、すみません。言葉はダメでしたね。じゃあ今そっちに行きま――」 「余計にダメだ! 態度で示すな! 少しでもこっち来たら破門するからな」  距離を詰められる前に先手を打てば、ライナスの眉が八の字になる。心底残念そうだ。 「せめて言葉か態度、どっちかOKにして下さい!」 「どっちもNGだ。俺は男と付き合う気はない。恋愛対象には絶対選ばん。だから潔く諦めろ」 「……」 「目で訴えるのもやめろ」 「分かり、ました。ガマンします」  そう言いならライナスはうつむき、長々と息を吐き出す。
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