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僕と君が旅する世界
僕は超能力者である。
超能力と言っても念動力、透視や空中浮遊や発火能力のような超能力モノの漫画やアニメに出てくるような超能力と違ってショボいものだ。
僕がその超能力を持っていることに気がついたのは、幼稚園の頃のお遊戯会での合唱の練習の時だった。
合唱曲は「ふしぎなポケット」曲名だけを言われてもピンと来ないとは思うが、「ポケットの中にはビスケットが一つ」と言う歌い出しを聞けば「ああ、あの歌か!」と思い出す人は多いだろう。
その時の合唱では、先生がこだわりを持っていたのか「振り付け」が足されることになった。
ふしぎなポケットの歌詞には「たたくと」と言う歌詞が全部で四回出てくるのだが、その四回の時に右ポケットを叩くと言うものである。
手を横に目一杯伸ばし、右ポケットを勢いよく叩いて打楽器による合いの手を入れるのだ。少子化で園児が少なく間隔が広いからこんなことも出来たのだろうなと、成長して事情を知った後になって思うのであった。
先生がオルガンでふしぎなポケットを弾いていく。僕は先生に言われた通りに「たたくと」と歌う時に自分の右ポケットをパンと叩いた。クラスメイトも同じように右ポケットを叩いた。
合唱の練習が終わると、僕はズボンに違和感を覚えた。合唱前に比べて何か変な感触なのである。
気になって右ポケットを見てみれば妙に膨らんでいることに気がついた。
ポケットに手を入れた僕は驚いた。
「なんだこれ?」
僕は右ポケットにいつもハンカチを入れている。当時の流行りだったアニメキャラクターもののハンカチである。そのハンカチが五枚入っていたのだ。
母が五枚もハンカチを入れるなんてあるわけがない。そんなことをして何の意味がある? もし、母がそれをしていたとしても僕が気が付かない訳がない。
合唱の練習に入る前にトイレに行ってハンカチを使用して、ポケットの中に入れた時には一枚だけだった。誰かが同じハンカチを四枚持っていて、合唱中に僕のポケットの中に捩じ込んだなんて馬鹿な話があるわけがない。
僕は何故にハンカチ、それも同じものが四枚も増えたのか疑問に思うことしかできなかった。
それを先生に話してみたところ、あまりの意味不明な話故に「おとしもの」として処理されてしまった。帰りの会でクラスの皆に「ハンカチを落とした人はいませんかー?」と呼びかけたのだが、梨の礫。誰も名乗り出ることはなかった。誰も持ち主がいないのだから当たり前である。
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