僕と君が旅する世界

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 例えば、金塊(インゴット)だ。ポケットに入る程度の大きさのものをポケットに入れれば増やすことは出来る。だが、刻まれたシリアルナンバーも同じになってしまうのだ。 欲をかいて二つ同じものを売るのは論外、二つとして同じものが存在しない筈の金塊が二つ存在してる時点で片一方の偽造(正真正銘の金ではあるが)を疑われて買取不可で回れ右、最悪の場合は詐欺罪に問われることになる。 それならば増やした後に売ればいいかもしれないが、たった一つだけの実物資産を持つことと変わらない。これでは増やす意味がないのだ。 シリアルナンバーが刻まれている以上は増やしたもう一つは売ることが出来ないのだから。 仮にシリアルナンバーを削ったとしても、身元不明の金となり買取不可な上に出本をしつこく聞かれるだろう。 それこそ、答えようがない。 この話だが、父が実物資産として持っていた金塊で実際に試してみて実践済だ。金塊の売買に関しては父が持っていた実物資産取引の本で確認している。  高級腕時計にしても同じだ。ブレスレットを外したケースのラグにシリアルナンバーが刻まれている。紙幣や金塊と同じで一本目は売れたとしても二本目を売ることは不可能、それこそ偽物製造の詐欺罪でお縄だ。  ダイヤモンドのような宝石であれば、シリアルナンバーも刻まれていないためにふしぎなポケットで増やして売り捌くことで大金を得ることも可能だろう。だが、僕には宝石を手に入れる手段がない。手っ取り早いのは両親の婚約指輪を増やして、増やした方を売ることだが、「ちょっと婚約指輪見せて」と母に言ってみたところ「お父さんに内緒で売っちゃった。アンタが生まれる前に生活費に困ってる時期があったの。内緒にしといてね」と悪びれもせずに言われてしまった。流石に1がなくては2には出来ない。0は0なのだ。  僕の出来の悪い頭では、ふしぎなポケットを使った金儲けの手段を考えることが出来なかった…… 仮に僕ではない他の誰かがふしぎなポケットを使うことが出来ていたら一生遊んで暮らせる程の金儲けの手段が閃いていたかもしれない。 僕に出来るのは、増やした500円玉で小学生らしくせせこましい買い物をすることと、増やしたお菓子で小腹を満たすことのみだった。
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