僕と君が旅する世界

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 さて、僕は死装束を纏い死出の山を歩いていた。葬式で焚かれた線香を道標にし、焼香で腹を満たしながら進むこと七日目…… 賽の河原へと辿り着いた。 三途の川より、船頭がぎーこぎーこと船を漕いでやってきた。僕の前に停船させた船頭は手を差し出してきた。 「おい、渡し賃の六文銭を出せ」 はいはい、乗船料ですか。三途の川の渡し賃の六文銭が迷信ではなく真実だと知って驚くばかりである。 僕は首からぶら下げた頭陀袋に手を入れて六文銭を出そうとした。 しかし、頭陀袋の中には冥銭が一枚しか入っていなかった。 葬儀屋が入れ間違えたのか? 不況で一文しか入れてくれなかったのか? 火葬の炎が強すぎて冥銭五文分が焼き尽くされたとでも言うのか? 僕が六文銭を出せずに狼狽していると、船頭は(おもむろ)に口を開いた。 「おい? 金がないのか? 金がないと未来永劫賽の河原を彷徨うことになるぞ? 三途の川を渡らないと閻魔大王の審判も受けられないからな? 輪廻転生も出来ないぞ?」 これは困った。このままでは賽の河原を彷徨う亡者になってしまうではないか。僕は必死に死装束の袖の下も探してみるが、そこには何もなかった。 僕は自分の超能力のことを思い出し、頭陀袋を叩いた後に中を覗いてみた。 「やった!」 冥銭は二枚になっていた。死者になっても超能力が使えることに驚くばかりだ。後は四回頭陀袋を叩くだけだ。 こうして僕は六文銭を手に入れ、船頭に渡すことが出来た。 このように、絶体絶命の危機(もう絶命後であるが)を乗り越えた僕は三途の川の渡し船の上でふしぎなポケットの超能力に感謝をしていた。 最後の最後どころか、最期を超えた後にこのショボい超能力が役に立つとは思わなかったとしか言いようがない。 後は閻魔大王の審判で物を増やすことが悪事であると見做されないことを祈るのみだ。 むしろ、色々な人間を喜ばせてきたのだから善行と見做されて欲しいものである。                           おわり
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