内緒で子育てしています

10/10
前へ
/174ページ
次へ
「これ何本?」 「…………」 「おーい。俺が誰だか分かる?」 主任が指を立てた後、私の頬を両手で触れてじっと視線を向けてきた。ぼーっとする意識の中、私の焦点が少しずつ合ってくる。 「うふふっ、かっこいーですね」 「はい?」 「私、あこがれてたんですよ。かっこいいおとこの人と社内恋愛とかー。夜中にまんがでよん……」 ブーブーと振動音。私のポケットの中のスマホが鳴り出した。多分。 「電話鳴ってるよ」 「……わかってますよー。はいもしもしーかえでーす、ふふっ、あはははははは」 「駄目だわこの人……」 大きなため息が聞こえた瞬間、耳に当てていた筈のスマホが目の前の男の人に奪われてしまった。 「すみません、お世話になってます。奈良崎さんの会社の者で山崎と申します。お母様ですか?本日、部署の飲み会がありまして」 「かってに、とらないでよー」 「はいはい、彼女とても酔っ払ってしまいまして……はい、すみません」 取り返そうと手を伸ばすも、届かなくてグイッと離されてしまう。 ふわふわして、彼が電話口で何を話しているか分からない。 「はい、いくよ」 大きな手が私の腕を掴んだ。 引っ張られるよう、よろよろと歩き出す。 なんかよく分からないけど、ぽやぽやする意識の中心地良くて目がトロンとしてくる。 ─────────── ───────────……… 再び夢の中へいってしまった私が、次に目を覚ました時──。 「……さん。そろそろ、起きてよ」 「………」 「朝ごはんだって」 「……うーん、お母さんもうちょっと寝かして」 て、この男の人の声、誰?? 慌てて布団から起き上がると、なぜか主任がいる。 「おはよう、奈良崎さん」 「……な、なんで??主任が?」 私の目の前で、山崎主任がにっこりと微笑んだ。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

227人が本棚に入れています
本棚に追加