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「あっ、はい!?」
名前を呼ばれて振り返ってから"しまった!"と思った。
スーパーのカゴを片手に立っていたのは、明らかに会社で見たことのある背の高い男の人。
えっと、誰だっけ…?
確か、隣の隣の隣の席あたりに座ってる結構偉い人だったような。
「やっぱりそうだ、奈良崎さんだ。近所なの?ウチもこの辺りなんだけど」
「えーと……こんばんは。主任」
そうだ、主任だ。名前覚えてないけど主任だ。
事務の引き継ぎの三浦さんが言ってた。甘いマスクのアラサー男子だって。
「今日はお寿司かー。豪華だなぁ」
私の買い物カゴに視線を落として、主任が"ははっ"と爽やかな笑顔を見せた。
そして、私の後ろいる希乃愛にチラリと目を向ける。
「可愛いね、姪っ子?」
「えーと、あはは。あの、じゃぁ明日、会社で」
この場を去ろうとした瞬間──。
「ママ……。このおじさん、だぁれ?」
私の服の裾を掴むこの子が、後ろからひょこっと顔を出す。
「希乃愛!!帰ろう!ばーばが家で待ってるよ!」
「えー」
「す、すみません……あの、会社で皆に言わないで下さい……。お、お疲れ様でした!」
大きな瞳をパチパチとさせる希乃愛を抱えて、逃げるようにレジへ向かった。
私と希乃愛の関係について、目を丸くして驚く人の顔なんて見たくない。
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