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「おかえりー。早かったわね」
「ただいまー。ばーば、だいじょうぶなの??」
「希乃愛ちゃーん。今日、お迎え行けなくてごめんね。ばーば、腰が痛くなっちゃって。でも大分よくなったから」
はぁはぁと息を切らす。スーパーから自転車で飛ばして5分のファミリー向けのマンション。
玄関を開けリビングに入ると、腰痛ベルトを付けた母親がソファに横になっていた。
「香江、湿布買ってきた?腰に貼って~」
「服捲るよ。ねぇ、お母さん明日は仕事休めるの?」
「これじゃ動けないもの。休み貰った…あ、冷たっ」
うつ伏せに寝転がった母の服の裾を捲り、鎮痛剤入りの湿布を腰へ張り付ける。
総合病院で看護師のパートをしている母。
以前は師長を務めていたが、1年前パートに切り替えて働き出した。
まだ仕事から帰らない父親と、母親と私、そして希乃愛。
駅から少し離れた郊外のこのマンションで、家族4人暮らしている。
希乃愛も4月から入園した保育園に慣れて、私も正社員として働きだして、やっと前に歩き出したところなのに。
──何あれ。母親、若くない?
──何歳で産んだんだろー?
嫌ってほど耳に入ってきた台詞が脳裏によぎった。
この子には聞かせられない。聞かせたくない。
この子が、好奇な目に晒されるのは嫌だ。
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