はじめての家出

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お姉ちゃんに子供ができていた。 そんな事実を知らなかった父は激怒した。相手は誰なんだ、仕事はどうしたんだと、お姉ちゃんの胸ぐらを掴んで怒声を撒き散らした。 こっちが見ていられない程に姉のことを何度も叩いた。お母さんがお姉ちゃんとお父さんの間に入ったけど、父の手によって後方に突き飛ばされた。 母が身動きが取れない状況の中、父の罵声は止まらなかった。肝心の姉はというと、抵抗はせず無言のまま父にされるがままだった。 リビングのクッションに寄りかかって座る小さな子が、その様子をじっと見ているのが視界に入る。 泣きもせず、声もあげず、静かに親指を口の中に入れているだけ。 これはマズイと思って、咄嗟にその子を抱き寄せた。その光景を見せないよう、子供の視覚を覆ってリビングを出た。 廊下にもまだ父の声が響いてるから、こんな小さな子の前で勘弁してよと思う。 「あは、ちょっと喧嘩してるね。でも大丈夫だからね~」 頑張ってあやそうと、両脇を持って上に持ち上げる。笑わせそうとお腹に息を吹きかけた。 友達の年の離れた弟をこうやって遊んであげたことがある。けど、この子は全然笑わなかった。 泣きも笑いもしない、もちろん喋らない。 それが、希乃愛(ののあ)だった。
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