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震える声で絞り出された台詞。いつもピンと伸びていたお姉ちゃんの背中が小さく目にうつった。
一瞬、何を言っているか意味が分からなかった。
こんな小さな子に手を出したなんて信じられなくて、かなり動揺したのを覚えている。
「えー……、あ、そうだ!とりあえず、ゆっくり休んで、ね?明日、お母さんとか話せば分かってくれるよ!頭かたいけどお父さんより全然話通じるしさー」
私はどうしてこの時、姉の話に耳を傾けてあげられなかったのだろうか。
「おやすみ」と言って扉をしめる時、お姉ちゃんがゆっくりと振り向いた。その時のすがるような瞳が不安そうに揺れてた事に気がついていたのに。
次の日。小さな子供を家に置いたまま、姉の姿は無くなった。
部屋の机の上には"この子をよろしくお願いします"と書いたメモと母子手帳が並んで置かれていた。
母子手帳を開くと、妊娠中から産まれた後も事細かに記録がされていて、とても姉らしいと思った。
真面目で一生懸命な性格をした姉が出した唯一のSOS。
彼女自身を否定し、寄り添いもせず、事実を受け入れてあげる事が出来なかった。
これは、私達、家族の罪でもある──。
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