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「ん、んー……」
寝返りをうってまぶたを擦る希乃愛が、半分寝ぼけた声を出した。小さくまばたきをしながらゆっくりと目を開ける。
「……ママぁ?……おかえりー」
目をキラキラとさせて、ぱぁぁと明るくなっていく希乃愛。と同時に姉の表情が曇ったのが分かった。
この子はまだ私の方が好きなのだ、という優越感と醜い感情が沸き上がる。
とその時、鞄に入ったままのスマホが着信音を上げた。
「……た、ただいま。あ、電話だ。出てくるね!」
逃げるように自分の部屋を後にして画面を見ると、主任の名前が表示されているのが目に入るから。スマホをぐっと握りしめたまま家を飛び出した。
エレベーターなんて待ってられなくて、階段を駆け下りてそのままエントランスを出た。そのまますぐ近くの公園の入り口までダッシュをする。
運動不足かな。ちょっと走っただけで喉にきた。
息が乱れて、苦しくて、心臓が引きちぎれそうに痛い。
1度切れた筈のスマホが再び鳴った。
主任からだ。彼はずっと出張続きで連絡もあまり返してなかったから、心配してるのかもしれない。と、気が重いままボタンをタップして通話をはじめる。
「……………はい、もしもし」
「香江ちゃん?良かった繋がって。今、何処にいる?家かな?」
「お疲れ様です。はい、さっき帰ってきたところで……」
「全然会えてなかったから顔見たくなっちゃって。それに、希乃ちゃんも元気かなって思って」
「だ、駄目です。会えません!!」
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