宝物探し

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宝物探し

 理央は日々に足りない刺激ともどかしさに気付けば、捨て切れずに悶々と湧き上がる幼い感情のままにポケットを空にし直し、その身そのままで家を出て走っていた。  向かった先は海岸。一心不乱に目に付く貝殻を手一杯に拾い集めては、ポケットに入れる。─────コン、カラカラ、カラランッ。柔らかい生地に似合わぬ落下音。そして、嬉々と響き渡る男の声。 「やっと来ましたな!これはまた、素敵な物ではありませんか!」  重なる明らかな違和感に疑問符を浮かべながら、理央がポケットを外側から叩いていると、じれったそうに男は続ける。 「……ほら、こっちです、こっちこっち!中を見て。」  服を手繰り寄せ、ポケットの縁を目に当てながら覗き込むと、小さな紳士的な学芸員が満面の笑みを湛えて理央を見上げていた。  ポケットの中に広がっていたのは、小さな…それで居て広々とした美術館。そこには幼い頃にポケットに詰め込んだ“宝物達”が、ミニチュアサイズで綺麗に陳列されていた。いつの間にか、先程入れた貝殻達も仲間入りしている。  理央の顔を見るなり、その男はハンカチで嬉し涙を拭いながら、心底優しい眼差しをこちらに向けて、まるで親戚のような口振りで。 「ああ……見ないうちに、こんなに大きくなって…。お帰りなさい。皆、あなたがここに来るのを心待ちにしていました。次の宝はいつ見られるのか、と。…余りにも来ないものですから、もうあなたにどれもゴミだと思われてしまっているのではないかと、ハラハラしていたものですよ。」  その言葉に理央は、はっと目を見開く。社会に荒んだ心を満たすのは、何でもない物への感動だったのだ。  このつまらない日々への彩りを思い出させてくれたこの男に、理央は次の訪問を誓い、ポケットを閉ざし、前よりも軽い足取りでスキップをしながら砂浜の砂を蹴って行った。
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