プロローグ

1/1

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

プロローグ

 残業三昧の毎日で麻痺した身体の体内時計は狂っており、一日が瞬く間に過ぎていく。  理央の休日の過ごし方は、過労な日々で摩耗した体力と自分自身の時間を取り戻すように、日が高く昇っても尚貪る惰眠と、ネットサーフィンだけで終わっていた。  自炊の気力も無い。とんと回らない思考。スマホの画面と睨めっこをするのをやめ、コンビニに向かうべく機械的にポケットに詰め込むものは、いつもの必要最低限の物と、噛んでいたガムを包み紙で包んだゴミ。 「スマホは絶対。財布も、ああ…使い捨てカイロも入れないと。……食べたらすぐ寝よ。」  そう気怠げにぶつぶつと独り言を呟く中、理央の手元のポケットから男の声がした。 「───まったく…いつからポケットに、機能性を押し付けるようになったんですか。本当にこれがあなたの宝物?」 「は…?」  理央は頭を抱えた。とうとう幻聴が聴こえるほどにまで疲れてしまったのか。ポケットが喋ったように聞こえるだなんて。  疲れた序でに、“当たり前”を仕舞われるポケットのボヤき声に付き合ってやろうと、理央は玄関前で立ったまま肩を竦めていた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加