恋のキューピットは難しい

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恋のキューピットは難しい

 何故か、亀ちゃんの想い人である田川君と隣の席になってしまった訳なのだが……。 いざ、恋のキューピット!とは言うものの、何をどうしたら良いのやら?と考えていたら、亀ちゃんの想い人である田川君が教室に現れた。  田川君の噂はかねがね、亀ちゃんから聞いてはいた。 亀ちゃんが田川君を好きになったきっかけは、偶然、田川君の隣の席の女子が恋愛相談を田川君にしていたのを目撃した事なんだとか。  普通ならめんどくさいであろう他人の恋愛話を親身に聞いて上げていて、その上、泣き出したその子の頭をヨシヨシと撫でていたその優しい手に惚れたんだとか。  誰かを好きになるきっかけって、人それぞれだものね。 でもね、私は亀ちゃんらしいな……って微笑ましく思ったんだ。 亀ちゃんと出会った当初、亀ちゃんは 「恋愛って……良く分からない」 って言っていたの。 「好きって……いつ、どうやってそう思うの?私は……男子って、乱暴だから苦手。だから私、一生恋愛なんてしないかも……」  私達の恋バナに、何処か遠い話のように聞いていた亀ちゃん。 それは、2月の期末テスト終了日の事だった。 テストが終わった開放感に、帰りにお茶して帰ろうといつものメンバーでワックに行った時だった。 亀ちゃんが頬を赤らめて 「あのね、私……好きな人が出来たみたい」 と呟いたのだ。  勿論、恋愛に全くもって興味の無かった亀ちゃんの恋バナに、私達が盛り上がったのは言うまでも無い。 「え? 何組の誰?」 前のめりで聞く夏美に 「3組の田川君」 と答えた亀ちゃんは、『田川君』と言いながら顔を真っ赤にしている。 (やだ!亀ちゃん、可愛い!) 亀ちゃんの初恋に沸く私達。 「田川って……、バスケ部の?」 私達の異常な盛り上がりに呆れた顔をしながら理恵ちゃんが聞くと 「え?田川君って、バスケ部なの?」 と、目を輝かせた。 理恵ちゃんは言いづらそうに 「田川って……バスケ部の三馬鹿トリオの1人じゃん」 そう言いながら 「何処が良いの?」 って呟いた。 (バスケ部の三馬鹿トリオって……) 理恵ちゃんの相変わらず辛辣な一言に苦笑いしていると、亀ちゃんは机を叩きながら 「田川君は、凄く優しい良い人だよ!」 そう叫んだのだ。 (おぉ!普段は大人しい亀ちゃんが、理恵ちゃんに反論している) ポテトをつまみながら、恋する女子は、好きな男子の為なら強くなれちゃうんだ~って思った。 理恵ちゃんは亀ちゃんの反論が痛くも痒くも無いらしく、気にした素振りもなく 「はいはい。そう言えば……田川って、最近、中学時代から付き合ってた彼女と別れたみたいだよ」 と話題を変えた。 「えっ!田川君、彼女居たの!」 驚く亀ちゃんに 「でも、別れたらしいよ。良かったね、亀ちゃん。好きになった時にフリーなんて、ラッキーだよね」 と微笑んだ。 「これって案外、運命かも!」 盛り上がる夏美ちゃん達。 私は田川君が誰なのか、この時は知らなかった。 「あれ?たまちゃん、珍しく大人しいね」 3人のやり取りを聞いていた私に、一気に視線が集まる。 「いや、田川君ってどんな人なのかなぁ~って考えてたんだよね」 「あ~、たまちゃんは好きな人しか興味無いからね!」 「そ!そんな事、無いよ!」 夏美ちゃんの言葉に慌てると、理恵ちゃんが 「明日から部活が始まるから、練習を見に行ってみる?」 と言い出した。 「えぇっ!」 真っ赤になって慌てる亀ちゃんに 「嬉しい癖にぃ~」 そう言って理恵ちゃんが肘でウリウリと突っつくと 「やだ~、理恵ちゃん。からかわないで!」 益々、真っ赤な顔をして恥ずかしがる亀ちゃん。 あんなに男子が苦手って言っていた亀ちゃんが、初めて好きになった田川君。 どんな人なのか、私も練習を見に行くのが楽しみだった。  翌日、体育館で部活の練習をしている田川君を、いつものメンバーで覗きに行ってみた。 すると、一つ年上のバスケ部のキャプテン(めっちゃ背が高くて爽やかイケメンだった)が、こちらに気付いて歩いて来たのだ。 (え!何で?) 驚く私達をよそに、理恵ちゃんが 「げっ……」 って呟いたのを聞き逃さなかった。 「理恵、珍しいな。練習を見に来るなんて」 爽やかイケメンの爽やかな笑顔に、私、亀ちゃん、夏美ちゃんは3人で固まって理恵ちゃんの顔を見た。 「友達と一緒に居る時は、来ないでって言ったでしょう!」 「え?じゃあ、何で来たの?」 「何でって……」 コソコソと話す2人の会話で、理恵ちゃんが秘密にしていた彼氏が判明した。 理恵ちゃんは秘密主義で、絶対に自分の事は話さない。 ただ、好きなタイプは「背が高くてイケメン」とだけは言っていた。 私達はバスケ部のキャプテンの顔を見て、納得してしまった。 そりゃ~一つとは言え、年上で爽やかイケメンの彼氏が居たら、タメなんて相手にしませんよねぇ~。 ニヤニヤしながら見ている私達の視線に気付くと 「もう! 私の事は良いから、さっさと練習しなさいよ!」 って、理恵ちゃんが怒り出した。 バスケ部のキャプテンは、そんな理恵ちゃんを笑顔でかわしながら 「可愛い彼女の為に、カッコイイ姿を見せますかね」 なんて言って、颯爽とコートへと戻って行った。 「川上先輩」 そんな理恵ちゃんの彼氏を見送っていた時、背の高い男子が理恵ちゃんの彼氏に近付いて行くのが見えた。 「田川君……」 私の腕を掴み、亀ちゃんが小さく呟いたのが聞こえた。 亀ちゃんの視線の先を見ると、背の高いガッチリとしたスポーツマンタイプの男子が立っていた。 顔立ちは、一重で垂れ目。 唇が厚くて、口は少し大き目だ。 黙って立っていると、無愛想で怖い感じだった。 「ねぇ、亀ちゃん。彼、本当に優しいの?」 思わずこっそり聞くと 「うん、優しいよ。友達思いで、良い人なんだ」 田川君の事が大好きって全身で訴えながら話す亀ちゃんに、私は亀ちゃんの初恋が成就して欲しいと願わずにはいられなかった。
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