狂想2ー⑹

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狂想2ー⑹

 鳥居をくぐり小さいながら落ちついた趣の境内に足を踏み入れると、「やっ……はっ」という掛け声のような物が流介の耳に飛び込んできた。声をした方を見ると、手水と社の間でなにやら棒のような物を放り投げている外国人男性の姿が見えた。 「――あのう」  二本の棒を器用に受け止めたところで声をかけると、男性は「はい」と言って薄い瞳を流介の方に向けた。 「失礼ですがジョナサンというのはあなたですか?」 「そうですが……あなたは?」 「僕は『匣館新聞』の記者で飛田と言います。『風神堂』のご主人からあなたが店に『幸運な道化』というトランプを売った人だと聞き、お話を伺いにやってきました」 「トランプのことで?どういう意味です?」 「あの店でトランプ――『幸運な道化』を買った方が、なぜかそのトランプを何者かに奪われてしまったのです。それで『幸運な道化』を欲しがっている人間に心当たりはないか伺いに来たのです」 「あなたは買った本人ではないのですね?」 「はい。ちょっとした知り合いです。本人がもう手詰まりらしいので代わりに調べていたところ、あなたに行きついたのです」 「つまり僕が、自分の売ったトランプを自分で盗んだと?」 「そういう意味でお尋ねしたわけではありません。盗まれたトランプを見つけるための手がかりが得られればいいなと……」 「手がかりですか。そうですね……私からお教えできることはなにもありません。ただ、あのトランプについてなら多少、話せないこともないです」 「それでいいです。ぜひ聞かせて下さい」  流介が藁にもすがる思いで身を乗り出すと、ジョナサンは「あれは私が昔、玩具の商いをやっている知人に作ってもらった自分専用のトランプなのです」と打ち明け話を始めた。
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