62人が本棚に入れています
本棚に追加
/286ページ
1-1 指輪を買いに行く日
かつてあの人には心のドアが存在した。本当のあの人は、弱みを見せられる子供だ。強がりで意地っ張り。自分は強いふりをしている。俺と似ている子供だ。感情を表すよりも、我慢してしまう。そして、俺はそのドアを開いた。それには呪文が必要で、大きな声で唱えた。
……そのままのあなたが大好きと。
けっこう自由になったあの人は、今日もエロさを発揮している。魔法の呪文で、俺のことを誘い出している。
「ゆうとくーん。こっちにおいで」
「もうっ、なにかするだろ?」
「『オムレツを焼く』のにー?」
「もうっ、その手にはのらない!」
「モウモウ言うと、ウシになるぞー?」
「ヤギになってやる。メエエ……」
「モウモウ……」
「メエメエ……」
「ゆうと、可愛い……」
「ゆうりさん。かっこわるい……」
まるで回転木馬のようだ。音楽が鳴り終わるまで抜け出せない。いつまでも。
最初のコメントを投稿しよう!