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22-14
……Visible ray……ray of light、光線……3、2、1……
これからステージを披露する。会場内に開幕のメッセージが流れている。夏樹が吹き込んだものだ。早送りのように繰り返し流れされていく。そして、最後の『ゼロ』のカウントが告げられた。
佐久弥のギターフレーズが鳴り響いた。この瞬間だけは彼にお願いした。デビューステージでは、俺が開幕のフレーズを鳴らす。
白と赤のストロボ照明が観客席を差した。上部や背後からは影が出来た。右斜め前に立っている夏樹の姿が光で見えない。ずっとそばにいるから気配で分かる。そして、夏樹がマイク越しに声を張り上げた。それに続くように俺も声を張り上げた。
「……打ち上げーー!ありがとうございますーー!」
「……ありがとうございますーー!」
「……とっておきのニュースですーー!」
ここでネタ明かしをする。この打ち上げ会もプロモ撮影の一環だ。エンドロールとしてプロモに差し込まれる。
「プロモー撮影ーーファイナルーーー!撮られていますよーーー!」
キャーーーー!
「今のうちに、ご飯を飲み込んでくださいねーー!」
「……Visible ray、かいまくーー!」
「……かいまくーー!」
観客と高い天井へ向けて声を張り上げた。照明の色が変化し、観客席が輝いている。認めてもらえたのか?目の前の歓声と振り上げた腕が、その答えだった。
ナツキーー!ユートーーー!
サクヤーー!
テンポのいい掛け声により、会場内が反響している。スタンドマイクのみで、夏樹が観客を煽っている。ステージに惹きつけるためだ。それには、歌と演奏技術が不可欠だ。誤魔化しなどきかない。観客席を煽るだけではプロじゃない。佐久弥から勧められて、このステージ構成を選んだ。デビューに向けてチャレンジにしたい。
ここに居る人たちは、日頃からプロの演奏を耳にしている。盛り上げるために、ジャンプをして、ノッてくれているのだろう。それだけでは終わらせない。お返しだと思うからだ。メンバーも同じ思いだ。
「……ray of light!……Angel ofーー!」
俺のギターソロが始まった。佐久弥のギターが、安定したリズムを刻んでいる。その正確さのおかげで、リードギターを奏でやすい。
(美容師さんが言ってたことだ。求められているものを、正確にやるって。佐久弥は出来るってことだ。俺はまだまだだけど……。いつか超えて見せる。負けないぞーー)
佐久弥が近づいてきた。夏樹の方に行くぞと促された。ここからが、ボーカルとしての盛り上がり部分だ。観客席もホカホカになっている。
ド派手なギターフレーズを奏でたことで、観客の歓声が大きくなった。会話は聞こえるはずもない。佐久弥と俺が夏樹へ口の動きだけで意思を伝えた。十分に伝わるからだ。
「……なつきーー。行くぞーー」
「……さくやーー?」
「……思う通りにやれ!俺がゆるす!」
「……なつきーー、ギター職人に任せろーー」
ここからが ”夏樹シャウト” の披露だ。毎回シビれるような声を張り上げている。ぶっ倒れたら俺が支えてやる。この子の左側に立つ。心臓も守って見せる
夏樹の視線の先は、黒崎さん達のテーブルだ。夏樹がマイクを下にズラした。いよいよシャウトを聞くことができる。吹っ切れた後の第一声を心待ちにした。佐久弥も同じだ。ドキドキという鼓動を感じている。
「おじさーーーーん!トリャーーーー!」
これが、ラストのシャウトだった。
(うへぇーー?なんでオジサン?あああ……)
黒崎さんと早瀬が、ワインを飲んでくつろいでいた。観客が、2人をイジっていた。笑いも起きている。
ダダダダーー、ダダダダダッダーー!
ドラム音が鳴り響いて演奏が終わった。大きな拍手と歓声が起きた。ここで選手交代だ。さらに拍手が起こり、佐久弥と植本さんがタッチをした。さっそく流れるように、次の楽曲が始まった。
「……Visible ray!with!ウエモトーーー!……可視光線!!」
夏樹が声を張り上げた。その後は間奏が長く続く。ベテルギウスではボーカルが観客を煽る。夏樹としては最高潮を迎えているはずだ。思いきりやるだろう。
(さくやーー?何をやって……。あああ……)
佐久弥がステージへ出てきた。その手には、2リットルのペットボトルが握られている。それをひっくり返して、夏樹の頭へぶっ掛けた。着ているジャケットとTシャツが、ずぶ濡れだ。
「なつきーー、ぬげー!上半身だけだーー!」
「おーーー!」
夏樹がジャケットとTシャツを脱ぎ捨てた。それを豪快に客席へ放り込げると歓声が上がった。みんなが取り合いになって盛り上がった。
植本さんがギターを奏でながら、ステージ中央まで来た。すでに黒の革パンツと上半身裸になっている。かっこいいなと思っていると、佐久弥がやって来た。新しいペットボトルを手にして笑っている。
「ゆうとーー!お前もだーー!」
「パワハラだーー!」
キックすると、大笑いしながらサイドへ戻っていった。このことでも会場内が盛り上がった。ボーカルが始まろうとしている。夏樹がその声を張り上げた。
「いくぞーー!兄弟ーーー!」
ワーーーー!
「いくぞーー!オラアア!……own eyaes !まだいけるかーーオラア!」
ドーーーン!
効果音とドラム音の効果のタイミングが合った。ラストまで駆け抜けた後、アンコールの掛け声が会場内を包んだ。佐久弥との息もぴったりだ。溶け合うようだった。これが、ステージでヤッてしまったというケースなのか?
このままステージから降りたくない。それでもいいか?観客からの声援が、その答えだった。
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