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1-4
すると、すがりついている身体が小刻みに揺れ始めて、笑い声が聞こえてきた。すぐに顔を上げると、いじめっ子の早瀬から見つめられていた。
「黒いのは……観葉植物の影だよ」
「マジで!?……いるんだよね?」
「本当だから、勇気を出して見てごらん」
「うん……」
恐る恐る床へ視線を向けると、テラス窓のそばに置いてある、パキラからの影が出来ていた。空調の風に揺れている。
ホッとして力が抜けてしまった。キッチンの黒いヤツではなかった。しかし、早瀬のことを怒る気にはなれなくて、仲直りのようなきっかけが出来たことが嬉しい。
「はいはい、ゆうとくーん」
「うん……」
「寡黙な男がよければ続けてもいいぞ?」
「ううん。ペラペラしゃべってよ。黙ってほしい時には言うから」
「可愛いことを言う子は……」
「な、なに?きらい?」
「……大好きだ」
「あ……」
どうしよう?不覚にも胸がキュンとした。近づいてくる唇を避けることは出来なくて、軽く重ねられた。微笑み合って、元通りに戻った。よかったと思っていると、視界が揺れた。天井を見上げている状態だ。この状況は危険なものだ。夜にしたのに、またこの展開か?
「裕理さんっ、もうーっ」
「可愛いからだ」
「もうーっ、そんなこと言ってもダメ!ショップに行くんだよね?」
「モウモウ言っていると、ウシになるぞ?」
「メエメエー。ヤギだからね」
「モウモウ……」
「メエメエ……」
「ごめんね?腹ペコだ。おかわりする」
「あああ……」
腹ペコの早瀬から、美味しく頂かれてしまった。この展開も回転木馬のようだ。いくら逃げても、後ろを追いかけて来る。音楽はエンドレス。これが俺と早瀬のストーリー。
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