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1-6
謝りながら振り向こうとすると、両腕が前に回された。こんな人目の多いところで。恥ずかしいから離れたい。
「裕理さん!離れてよーー」
「だーめ。危なっかしい」
「もう大丈夫だから……ショップに着くだろ?」
「通り過ぎたぞー?」
「ええええ?マジで!?そんな……」
「嘘だよ」
「もうーーっ」
また騙されてしまった。大事なことはウソをつかない約束だが、こういうことは日常茶飯事だ。いわゆる、手のひらで遊ばれている状態だろう。これでは尻に敷く日が遠い。
来た道を戻ることなく歩いて行こうとして、早瀬から手を引かれた。なんだよ?と振り返ると、目的地のショップがあった。ジュエリー・ソクラテスという。
白を基調をした外観だ。ピカピカに磨き上げられたガラス壁と重厚さを感じさせるドアが付いている。大学生の自分にとっては縁のないショップだ。しかも同性である男と訪れている。女性と訪れる夢を持っていたのに。
みっともない同士、一緒にいようねと、寒空の下で誓い合った。お互いの左手の薬指には、お揃いの絆創膏が貼られていた。それが指輪交換となった。
ジュエリーショップの前に立ち、ショーウィンドウが目に入った。モデルの写真が変更されていた。女性モデルから男性に変わっいる。
それは見たことのある人物だった。バンドメンバーの藤沢だ。O大学の1年生で、ギターを担当している。高校時代からモデル活動をやっており、趣味が多くて多才な子だ。
「藤沢だよーー」
「ああ、ホントだね。大きな仕事をやっているじゃないか」
「バンド活動とモデル。忙しいんだろうなあ」
ガタン……。ドキドキしながら、ドアを開けた。
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