13.本当に彼女の事が好きなのね⋯⋯何だか可愛い。

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13.本当に彼女の事が好きなのね⋯⋯何だか可愛い。

「決闘の再戦を申し込みます。私はオーラを使ってません。それに、アリアドネ様は可愛い笑顔でわざと気を引きましたよね。そんな事で隙をつくるのはどうなのでしょうか⋯⋯反則ですよね」    負けたと認めるのはプライドが許さない事は理解できるが、空気の読めないルイモン卿の言葉にため息が漏れた。 「私はオーラを使っていけないとは一言も言っていない。戦場で死んでから言い訳はできないと理解しているのか? 笑顔は私の武器だ。ルイモン卿はオーラという武器を自ら捨てた。再び対戦したい? 理性を総動員して何とか首を切らなかったが、次はきっと切る。死んでしまうと、神聖力を使っても蘇らせることはできない」  アリアドネの言葉に辺りが静まり返った。  確かに、彼女はあのまま首の動脈を切りルイモン卿を絶命させることもできた。  正直、私と2人で話している時の彼女からは想像出来ない程、鬼神のような殺意を感じた。可愛らしくて聖女と呼ぶに相応しい程に優しい彼女が怒り狂うのはセルシオ国王を侮辱された時だった。 (どうして、貴方はそんなにセルシオ国王陛下が好きなの?)  彼女は笑顔が武器だと言ったが、確かに彼女の笑顔は一撃必殺だ。 「そこまでだ! 見苦しいぞ、ルイモン卿。この帝国の恥晒しが! ドレス姿で戦ったアリアドネ王女の方がずっと不利な条件だったことにさえ気がつけないのか? 聖女様に剣を向けるなど本来なら帝国の地を踏むことが許されない程の無礼な行為だ」  聞き慣れたよく通る声に振り向くと、そこにはルイス皇子がいた。  アリアドネの射抜くような真剣な瞳の美しさに見惚れてしまい気が付かななかったが、確かにドレス姿で彼女は戦っていた。  ルイス皇子の隣には第2騎士団の副団長であるカラルト卿がいる。   身分的に名門侯爵家の出であるルイモン卿は騎士団の団長になることを約束されていた。  しかし、実力では下位貴族でしかない副団長のカラルト卿が上だ。  彼はルイモン卿を追い落とす機会を窺っていたのだろう。  アリアドネの想像以上の剣技に注目して、ルイス皇子がいらっしゃっていた事に気がつけなかった。  恐らくカラルト卿は早い段階でルイス皇子を呼び、ルイモン卿のやらかしの現場を見せている。  「本当に申し訳ない。彼のような不躾な人間は帝国ではごく1部だ。どうか、パレーシア帝国に失望しないで欲しい」  ルイス皇子が跪きアリアドネの手を取り、頭を擦り付けている。  彼の彼女への特別な感情、そして彼女が強い神聖力を持っていること。  恐らく、彼は本物のアリアドネではなく、彼女を帝国に連れて行けないかを考えている。   「ルイス皇子殿下! 私は⋯⋯」  ルイモン卿が明らかに、これから自分がどうなるのかを考えて焦っているのが分かった。  帝国の皇子を跪かせ、頭を下げさせたのだ。  流石に自分がしてしまったことの大きさに気がつくだろう。    カルパシーノ王国だけでなく、アリアドネを小国の王女として侮りすぎていた。  彼女の神聖力を見て、すぐに気がつくべきだった。  帝国で最も尊重されるべきとされる聖女に対して、彼は挑発されていたとはいえ剣を向けてしまったのだ。  「ルイモン卿⋯⋯今日を持って第2騎士団の団長の任を解任する。そして、僕の権限で、ルイモン家の爵位及び全財産を没収する。帝国において聖女がいかなるものか理解していなかったのではあるまいな」  ベリオット皇帝が倒れている、今、クリス皇子とルイス皇子には皇帝と同等の権限が与えられている。  それにしても、爵位だけではなく全財産まで没収するとは重い決定だ。  恐らく、愛するアリアドネに剣を向けたことが許せなかったのだろう。  「ルイス皇子殿下。実はとても慈悲深い方なのですね。私は、彼を島流しにするのかと思いました」  アリアドネが発した言葉に耳を疑う。  島流しとは⋯⋯彼女はよっぽどセルシオ国王が侮辱されたことが許せなかったのだろう。  そして、ルイス皇子は彼女に褒められた事で恥ずかしいくらいに顔を真っ赤にしている。  表情管理は帝国の皇子らしく完璧だが、顔が赤くて褒められたのが嬉しくて仕方がないのが隠しきれていない。 「いや、君に怪我がなくて良かった。君に何かあったら僕は狂ってしまってたかもしれない。君が素晴らしい剣技を持っているのは分かったが、君には戦って欲しくない」  ルイス皇子が震える手で、アリアドネの手を握りしめている。  厳罰を喰らったルイモン卿もだけでなく、周囲に集まった招待客にもルイス皇子の気持ちはバレてしまうだろう。  私はそんな風に全く感情を隠すことの出来なくなった彼に抱いたことのない感情を持ち始めていた。 (本当に彼女の事が好きなのね⋯⋯何だか可愛い)  こんな彼を見たら、私はどうしても考えてしまう。  替え玉のアリアドネには好感を持っているけれど、その想いは10年以上想い続けたルイス皇子への気持ちを超えることはない。  替え玉のアリアドネを帝国に連れて行って、本物のアリアドネをセルシオ国王に当てがう。  神聖力が使えるとはいえ、本物のアリアドネは危険だ。  彼女の周りには常に死の臭いが漂っている。  毒を使っているのか暗殺者を使っているのか分からないが、彼女が嫁ぐと周りの人間は次々と死んだ。そして、最後は国まで滅ぶのだ。彼女を帝国に連れて行くのはリスクが高すぎる。  アリアドネに跪いているルイス皇子が、私をチラリと見てアイコンタクトをとってきた。  瞬間、今まで感じたことのない程に胸が高まるのを感じた。  きっと、彼も私と同じことを考えている。そして、麗しい帝国の皇子が自分を頼りにしていることに高揚感を覚えた。  
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