27.お前のせいで帝国の程度が知れるわ。

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27.お前のせいで帝国の程度が知れるわ。

「帝国にはカリンを連れて行こうと思う、それに際し、君には本当のアリアドネとしてセルシオ国王の前に現れて欲しい⋯⋯僕らが帝国の船に乗った後にだ」  カリンの神聖力を見て、彼女の方を帝国に連れて行きたいと言われることは予想していた。 「今すぐカリンと代わっても構いませんよ。条件さえのんでもらえるのならば⋯⋯」 「待ってくれ⋯⋯僕がカリンの心を得られてないから、カリンに本当のことは言えてないんだ。彼女には皇帝の病気を治す名目で帝国に来てもらう、そして僕はそのまま彼女を妻にしたいんだ⋯⋯カリンが好きなんだ、誰よりも⋯⋯心から⋯⋯」  一瞬、彼の言っている内容が全く理解できなかった。  ルイス・パレーシアとはこのような方だっただろうか。  心を得るも何も、帝国とカルパーシノ王国には上下関係がある。  気に入った女がいたのならば差し出すように言えばいいだけの話だ。    恋というものを自分はしたことがないし、今まで見てきた君主も純粋な恋をしているような人間はいなかった。    今、目の前にいるルイス皇子は私の知っている警戒心の強い切れ者の彼ではない。  どうやら創世の聖女カリンは彼のことを骨抜きにしてくれたようだ。私はこのチャンスを絶対に逃さない。  「カリンを騙して船に乗せて、私にセルシオ国王陛下が彼女を追いかけないように足止めをして欲しいということですね」  私の言葉にルイス皇子が目を逸らす。   「本当はカリンを騙したくはないんだ。でも、僕の方が彼女を幸せにできるし、帝国ならば彼女は聖女として大切にされる。彼女に相応しい場所に連れて行きたいだけだ⋯⋯」  私はルイス皇子をはじめて哀れに思った。  彼も初めて生まれた感情に戸惑っているのだろう。  彼は彼女が欲しいれど、彼女の心が自分になくて騙して連れ出すしかないと言っている。  なんでも願えば叶う立場にいる彼が、カリンの心が欲しいと言っている。  カリンを捕らえ欲望のまま犯してしまっても、おそらく彼を批判できる力を持っているものはいない。  それ程に北西の貧しい小国にとって、パレーシア帝国の皇族は絶対だ。  私は身を持ってそれを知っている。  私の気持ちなんて誰も気にしてくれなかった。  私も他人の気持ちを目的より優先する程、誰かを大切に思ったことはない。  とても尊くて永遠に私が持つことのない感情だと思う。 「殿下が私の妹を寵愛してくれる事を嬉しく思いますわ。私は、殿下が帝国の事を1番考えている方だと存じ上げております。皇帝陛下もカリンの神聖力なら、全快するかもしれませんね。聖女の力の不安定さを知っている方なら私よりカリンを選ぶでしょう。当事者だけしか知らない秘密も殿下ほどの方なら知っているのかしら」  ルイス皇子に私は帝国が聖女のについての情報を隠し持っていることを知っているというメッセージを伝えた。  聖女の存在により選ばれし国だと言われていたパレーシア帝国。  多くの嘘があることを殿下は知っているはずだ。  そして皇室機密情報である聖女に関する情報を、私が得ている事で私を過大評価すると思った。 (まさか、自分の愚兄が漏らしているなんて思わないでしょうね⋯⋯)  実際の私は神聖力もほとんどなく、男を見ると吐き気が止まらなくなり、母を助けられず父親の葬儀にも出れなかった無力な女だ。  いつ死んでも良いと思った瞬間に死ぬわけに行かないと思ったのは、シャリレーン王国を再建する天命があったからだ。 「アリアドネ⋯⋯駆け引きをしないでくれ。君だって理由があってカリンに替え玉をたてたのだろう。君の意思を無視して無理な頼みをしているのだから要求は全てのむつもりだ」  ルイス皇子はどうしてしまったのだろう。  彼は恋などせず、帝国の皇帝になる天命を受けて生まれた存在だと思っていた。 「どうして、そこまでカリンの事を思われているのですか?」 「自分でも分からないんだ。でも、湖の辺りで指輪を埋めている彼女を見た時、一瞬で恋に落ちて自分が変えられてしまった。まさに、初代リカルド皇帝と創世の聖女のように僕らは出会ってしまったんだ⋯⋯」  私は指輪の場所がわかったことに深い安堵のため息をついた。 (湖じゃない! 辺りの土を掘れば見つかる!) 「ルイス皇子殿下、私の要求を申し上げさせて頂きます。全てのんで頂けたら、私も殿下の言う通りに致しますわ」  私は向こう10年パレーシア帝国がシャリレーン王国を支援することを約束するように伝えた。それは軍事、商業など多岐に渡る分野でだ。 「確かに毒は薬になるな。シャリレーン王国の毒草の活用については約束ができるだろう。しかし、10年間もの間シャリレーン王国を帝国の騎士団が守り、王国の騎士団を育てることまでするのは僕の権限では難しいかもしれない」 「ふふっ、難しい? こちらはカリンを渡すのですよ。あの子は世界を動かす程の力を持っています。彼女を、このままカルパシーノに置いても良いのですよ。きっと、初代リカルド皇帝と聖女マリアンヌが愛し合い築いた帝国のような発展をカルパシーノ王国は遂げるでしょうね」 「アリアドネ⋯⋯君の要求を全てのむよ」  ルイス皇子は心からカリンを愛しているようだ。 私はかなり無理な要求をしているのに、カリン欲しさが勝って要求を飲み込んでいる。 「では、盟約の誓いをしてください。殿下が立太子した段階で誓いが施行せれることを約束してください」  私は決して破られることのない誓いを魔術を使って彼にさせる事にした。  彼が皇帝ではなく皇太子になった段階としたのは、カリンがベリオット皇帝を全快させてベリオット皇帝の治世が長引く可能性があったからだ。 「殿下に向かって無礼な!」  レイリン嬢が口を出してきた。 本当に蠅のように鬱陶しい女だ。 「お黙りなさい! 今、私はシャリレーン王国の次期女王として、パレーシア帝国と国家間の交渉をしているのだ! 一介の貴族令嬢如きが口を出してい気ない場とも分からぬとは、お前のせいで帝国の程度が知れるわ」  レイリン嬢は俯き押し黙った。
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