40.カリンは創世の聖女の生まれ変わりです。

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40.カリンは創世の聖女の生まれ変わりです。

 カリンから聞いた話は想像を遥かに超えていた。  彼女は私とルイス皇太子を生贄にして、時を戻したらしい。  しかも、同意も取らず無理矢理だ。 (慈悲深い聖女とは程遠い行動⋯⋯この子が神様でしょ⋯⋯)  「カリン⋯⋯おそらく過去の私は自分とあなたを切り離せず、あなたを貶めるような行動をとったかもしれない。それでも、私も含め繰り返す事のないかけがえのない時を生きている⋯⋯お願いだから2度と時を戻すなんてことはしないで欲しい⋯⋯」  「分かりました。アリアお姉様」  カリンは一点の曇りもない瞳で私のいうことを素直に聞いてくる。  彼女の声は優しくて澄んでいて聞いているだけで心が癒される。  きっと過去の私も心が闇に引き摺り込まれそうになる度に、盗聴した彼女の声を聞いてなんとか自分を保とうとしたのだろう。  時を戻す前は彼女と5日間、2人で過ごしたと聞いた。  きっと私は、こんな風に自分を姉と慕ってくる彼女に複雑な思いを抱いただろう。  私が彼女を求め出したのは、両親を亡くしてからだった。  それまでは、自分に根付いたシャリレーン教の教えの元に彼女の犠牲は仕方がないものだと思っていた。  彼女が生きていると知った時も、捨てられた側の妹で、私の模造品として作られた可哀想な存在だと同情心を持った。  でも、実際再会した彼女は誰からも愛される幸せそうな子だった。  自分の神聖力が消滅しそうな時に、奇跡のような力を使う彼女に私は嫉妬しただろう。  無垢な笑顔で私を姉と慕う彼女を愛おしく思うと同時に、憎らしく思ったに違いない。  きっと、世界中の悪意を彼女の身代わりに自分が受けたと被害者妄想に取りつかれた。  皮肉なことに、回帰後に彼女に対する妬みが一瞬で消えたのは彼女が私を突き放したからだ。  彼女がいつも幸せそうにしている事と、私に起こった不幸な出来事は何の関係もないことに気がつけた。  戴冠式を終え、私は女王就任の演説の場にカリンを連れて行った。  彼女は優しい色をしたピンクのドレスを着ていて、服に興味のない私から見てもとても似合っていた。  王宮のバルコニーから見下ろすと、大勢の国民が期待するように私を見るのが分かった。  高低差から豆粒ほどの大きさにしか、みんなが見えないのに期待で輝く表情が見えるような感覚に陥った。  シャリレーン教による王族を神のように崇める教えのせいで、彼らは私が戻って来ただけで国の状況が好転すると勘違いしている。  私は5年以上も留守にしたのに、国が荒廃するばかりで誰も国をどうにかしなかったことに失望していた。  しかし、落ち込んでいる暇など私には1秒たりともない。   「今日は皆様に19年前、シャリレーン王家が犯した罪についてお話しします」  私の言葉に国民が騒つくのが分かった。  そして、皆がカリンに注目している。  私と似ている彼女がいることに、皆が母アンレリネが悪魔に取り憑かれ双子を産んだ真実を明かそうとしていると思っているのが分かった。  悪魔に取り憑かれていたのは私を含めこの国の異常な宗教だ。  他国からどう思われているかにも気づかず、王家を崇めていれば幸せになれると勘違いしている。自らは国の為になんの努力もしようとしない怠惰な国民性はそうやってつくられてしまった。 「私の母アンレリネ・シャリレーンは双子を産みました。母が迫害されるのを恐れ、先王であるレイサイア・シャリレーンは私の妹をカルパシーノ地方に捨てました。その子が隣にいるカリンです」  私の言葉に自分が紹介されたことに気がついたカリンがドレスを持ち上げて挨拶をする。  彼女の女神のような清らかで美しい姿に周りが息を呑むのが分かった。   「カリンは創世の聖女の生まれ変わりです。無限の神聖力を持つ神にも等しい存在でした。シャリレーン王国は悪しき風習により、神を捨ててしまった国家なのです」  国民が悲鳴のような声をあげているのが聞こえる。  でも、私は多くのシャリレーン王国の国民が双子が生まれた際、片方を処分してきたのを知っていた。  悪しき風習により失われた多くの命が、神に助けを求めカリンはこの地に生まれたのかもしれない。    双子の片割れは模造品で人ではないという信仰⋯⋯そんな訳はない。  カリンは神かもしれないけれど、私よりも馬鹿みたいに恋している人間らしい女の子だ。  そして、私もカリンの身代わりでも模造品でもない。  私は、この間違った歩みを進めていたシャリレーン王国を正しい方向に導く天命を持った女王⋯⋯アリアドネ・シャリレーンだ。 「過ぎ去ってしまった時も過ちも、全て受け入れなければなりません。これからは国民1人1人が自分たちの幸せの為に国の未来の為に生きることが望まれます。パレーシア帝国から10年支援が受けられます。軍事、商業、教育あらゆる場面において彼らから学んでください」  悲鳴をあげていた国民たちも落ちつたいようで、私の演説を聞き出した。  おそらくパレーシア帝国の文化が入ってきたら彼らは自分たちの遅れに気がつくだろう。 「妹のカリンが嫁ぐカルパシーノ王国とは平和同盟を結びました。これからは、他国と助け合いながら私たちシャリレーン王国の歩みを進めていきましょう」  私がドレスを持ち上げて挨拶をすると、拍手が巻き起こる。  隣を見ると、私の愛おしい妹が微笑みながら私を見ていた。
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