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「ふう、疲れた」
「ミチル、凄いな」
「えへへー、もっと褒めてもいいのよ?」
「お前の名はミチルというのか。素晴らしい戦いぶりだったぞ」
「勇者さんこそお強いですね。さすがです」
「ああ、私などまだまだだよ。君は本当に強かった」
「いえ、そんなことありませんよ」
「謙遜することは無い。君の実力なら私以上の勇者になれるはずだ」
「勇者ですか……実は私、勇者に憧れてたんです」
「そうなのかい?」
「はい。小さい頃はよく勇者ごっこをして遊んでました。でも、ある日を境にそれが出来なくなってしまいまして……」
「……そうか、すまない。辛いことを思い出させてしまったようだ」
「いいえ、気にしないでください。もう昔のことですから」
「君さえ良ければ私の弟子にならないか?」
「えっ!?」
「もちろん無理にとは言わないが……」
「いいえ、是非お願いします!」
「本当か! ありがとう! これからよろしく頼むよ!」
「こちらこそよろしくお願いいたします!」
すっかり行く気になっている妹の態度に俺はうろたえてしまった。
「おい、ミチル。お前行ってしまうのか!?」
「うん、ごめんね。お兄ちゃん」
「どうしてだ? もう昼飯やプリンも取り戻したんだし一緒に帰ろうぜ」
「でも、勇者になるって決めちゃったから……」
「お前がやりたいっていうのを止める権利は俺にはないけど……」
「じゃあ、いいじゃない」
「だけどなあ……」
「大丈夫だって。お兄ちゃんは心配性なんだから。それに勇者様だって一緒だし」
「うーむ」
「お兄ちゃんだって頑張る私を応援してくれたでしょ?」
「それはそうだが……」
「だったらいいじゃん! これからも頑張るから応援してて!」
「まあ、それもそうだな」
「うんうん! お兄ちゃんは素直が一番!」
こうして俺は勇者とミチルを見送る事にして自分の世界へ帰るのだった。
***
それから三年が経過して、ダンジョンが現れるのも珍しくなくなった俺達の世界ではミチルが魔王を倒したというニュースが流れていた。
「やった! ついにやり遂げたんだ!」
俺はテレビの前で拳を突き上げた。
「これで俺達の平和が戻ってくるんだ!」
俺は勇者に超時空電話をかけることにした。
『もしもし』
「おう、俺だ」
『久しぶりだな。元気にしているかね?』
「ああ、俺は相変わらずだ。それよりミチルのことだが、あいつは今どこにいるんだ?」
『ミチルは私の家にいるよ。君の妹君はとても優秀だ。今では立派な勇者になったよ』
「そうなのか。良かったな、ミチル」
『ところで君の方は何をしているのかな? ミチルから聞いた話では冒険者になったとか』
「ああ、今は世界を旅する旅人だ。たまにギルドの依頼を受けてモンスター討伐を手伝ったりしている」
『ほう、それは面白いね。それで、また私とも会ってくれないだろうか? ミチルにも会いたいだろうし、久しぶりに食事でもしようじゃないか』
「ああ、喜んで」
あれから次々と現れるようになったダンジョンは脅威でもあったが二つの世界を身近な物ともした。
交流とともに新しいルール作りもいろいろと行われていったが、それもこれからは落ち着いていくだろう。
こうして、俺達は再びの再会を果たすのであった。
「おい、ミチル。起きろ。朝だぞ」
「んー、あと五分」
「ダメだ。さっさと起きるんだ」
「ぶー、分かったよー」
「早く着替えないと遅刻するぞ」
「はーい」
「ほら、朝食もできているぞ」
「わーい、いただきます!」
「今日は帰りに買い物に付き合えよ」
「いいけど、なんで?」
「醤油と味噌が無くなってきたんだよ。買わないとな」
「えー、面倒くさい」
「文句言うなよ。お前も少しは料理覚えたらどうだ?」
「えー、めんどくさいし、それに私はお兄ちゃんの作った美味しいものを食べれれば幸せだよ」
「まったく。これだからミチルは……」
「ふふん、どうせ私は食いしん坊ですよーだ」
「そう拗ねるなって。お前は可愛い妹なんだから」
「そ、そんなこと言っても何も出ないよ」
「別にいいよ。その代わり帰ったらプリン作ってやるよ」
「え、ほんとに!? もう魔物の食材は食べ飽きちゃってさ。約束だよ!?」
「わかったって。じゃあ、そろそろ学校に行く時間だ」
「うん、行ってきまーす」
「おう、気をつけてな」
こうしてミチルは再びこの世界で学校に通うようになった。
この三年間でミチルはすっかり逞しくなった。
「お兄ちゃん、プリン楽しみにしてるからねー」
「わかってるよ。それよりお前、聖剣持っていくのを忘れるな。まだダンジョンは現れてるんだからな」
「あ、忘れてた」
ミチルは慌てて剣を取りに戻る。
その姿はあんまり世界を救った勇者には見えない。ただの可愛い妹だ。
出ていく様子を見送りながら俺は笑みを浮かべた。
「さて、俺も仕事に行くか」
俺は家の扉を開ける。するとそこはダンジョンになっていた。
「嘘だろ!? ああ、もうめんどくせえ!」
こうして、俺の冒険はまた始まるのだった。
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