第十章 極上の男

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 十年の月日は長い。幼児が少年に、少年が青年に成長するだけの時間を共に過ごした。肇の躰のことなんて、薫には全て知り尽くされている。どこをどう触ったら好いのか、どこが弱いのか。肇よりも薫の方が、肇の躰については余程詳しい。  だから、抵抗なんてできるわけがないのだ。期待に疼く前立腺を緩急つけて捏ねられて、肇にできることといえば、ただビクビクと腰を仰け反らせることだけ。  せめてもの抵抗として、両腕で顔を覆い隠す。己の痴態を薫に直視されていると思うと、鼓動がうるさくて敵わないのだ。十年の間に何百回と繰り返されてきたことなのに、今夜はどうにも、薫の視線が気になってしまう。  丹念に愛されて、愛撫されて、薫のための躰に作り変えられる。十年前からずっと続いてきたことなのに、今夜は特にそのことを意識してしまう。実際、肇の躰は薫しか知らなくなって久しい。肇のここは、今や薫専用なのである。   「は、っぁ……んく……」    いつの間にか、指を三本も咥え込んでいる。すっかり柔らかく解れた泥濘の中で、薫の指は器用に動き、気持ちいいところを刺激する。前立腺を擦られ、肉襞の凹凸をなぞられ、それでも、一番欲しい奥には指では届かない。  浅ましいと分かっていて、肇は腰をくねらせた。奥に欲しい。大きいので奥までいっぱいにしてほしい。燻っている快楽を最後まで燃え上がらせてほしい。肇の淫らな姿を前に、薫は唇を綻ばせた。   「いいよ。奥までいっぱいにしてあげる」    優しく膝を持たれ、足を開かされた。開いた脚の間に、薫が膝立ちで入り込む。見慣れたこの光景にも、肇の心臓は騒がしくなる。普通他人には見せない恥ずかしい部分を露わにして、それを全て薫に見られている。そう思うだけで、一層躰の熱が上がる。   「久しぶりだから、ゆっくりするからね」    ちゅ、と濡れた性器がキスをする。すりすりと入口を撫でられて、肇のそこは欲深く収縮した。奥へ引き込むように、くぱくぱと口を開ける。   「あっ……あ……」    ぬぷ、と先端が押し入ってくる。少しだけ挿って、出ていって、また少しだけ押し込まれる。   「すご……熱いね、肇のナカ」    ぬぷん、とようやく亀頭が埋まった。刺激を待ちわびて震える前立腺を僅かに掠める。けれど、そこで薫は止まってしまう。もっと奥まで挿ってきてほしい。そうでなければ、もどかしくておかしくなりそうだ。   「ん、っも……じらしてんじゃ、っ……」    肇は、顔を覆った腕の隙間から薫の様子を窺った。刹那、視線が絡み合う。薫の、熱っぽくも澄んだ眼差しが、真っ直ぐに肇を射抜いていた。   「あ……っ」    どくん、と心臓が大きく跳ねる。沸騰した血液が全身を駆け巡る。   「肇、大好き」    唇が美しく弧を描き、愛を告げた。同時に、奥まで一息に貫かれる。肇が求めて止まなかった刺激ではあるが、それはあまりに強烈すぎた。   「あ゛っっ……♡」    挿入の衝撃で押し出されるように白濁が漏れた。引き締まった腹筋をどろりと汚す。   「あ、は、んぁ゛……♡」    肇は余韻に喘ぎ、小刻みに震えた。ぼやけた視界に薫の姿が映る。ぼやけた視界に薫だけが眩しい。薫だけが鮮明だった。   「肇がかわいすぎて、我慢できなくなっちゃった。許してね」 「ゃ、ま゛っ……!」    肇が落ち着くのを待たずに、薫は腰を揺らした。高く張ったカリ首で前立腺をぐりぐり抉られ、奥をガツガツ穿たれる。空っぽの胎が薫で満たされる。寸分違わずぴったりと密着して、寂しいところなんてもうどこにもない。   「かっ、ぉ゛、かおる、かおるっ……!」 「うん。僕だよ。今肇を抱いてるのは、本物の僕だ。ちゃんと見て。こっち向いて。顔見せてよ」 「や゛、んぅ゛……いやだっ、ぁ……」 「なんで? 顔見てしたい」    甘ったるい声で囁かれて、顔を覆っていた腕をどかされる。手首を掴む薫の手の温もりさえ気持ちがよくて、全身が性感帯になってしまったようだった。   「泣いてるの? かわい」 「ちっ、が……ちがう……っ!」 「違くないでしょ。良すぎて泣いちゃった?」    ちゅ、と眦にキスされて、涙を吸われた。砂糖を煮詰めるみたいに愛されて、骨の髄までどろどろに溶かされる。   「僕ねぇ、昨日肇と会えて、本っ当に嬉しかったんだ。やっぱり、気軽に会えないのってすごく寂しかったし、電話だけじゃ全然足りないもん。ずっと一緒にいたから、一緒にいるのが当たり前になってたけど、こうして離れてみて、僕には肇しかいないって、改めて分かったんだ。肇はどう? 同じ気持ちだと嬉しいんだけど」    快楽に浮かされ朦朧とした頭で考えるまでもなく、肇には分かった。今日一日、調子が狂いっぱなしだった理由。薫にペースを乱されてばかりだった理由。肇も、薫に会えなくて寂しかったし、薫に会えて嬉しかったのだ。  久しぶりに会えて浮かれていたし、二人きりのデートも楽しみにしていた。薫のこの美しい瞳に己の姿だけが映される幸福を、薫に躰の隅々まで愛される悦びを、肇は既に知ってしまっているから。だから、今日一日ずっと落ち着かなかったのだ。   「み、るな……」    肇は目を伏せてそっぽを向く。薫に捕らえられ、手で顔を隠すこともできない。逃げ場はない。けれど、本当は見られたい。薫に見つめられる喜びを知ってしまっているから。この身にしっかりと教え込まれているから。だけど、見つめられすぎたらおかしくなる。穴が空いて、蕩けてしまいそう。   「はーじめ。こっち向いてよ」 「んん゛……」 「もー、素直じゃないんだから。でも、そういうとこも好きだよ」    そっと顎を取られ、唇が重なった。小鳥のように啄まれ、唇を優しく舐められて、それから。   「んっ♡ んん……♡」    柔らかい舌が挿し込まれた。口の中も薫でいっぱいになる。歯列をなぞられ、上顎を撫でられ、舌を吸われて、快楽がじわじわと全身に広がる。元は肇が教えたことなのに、今や薫に蕩けさせられてばかりだ。   「ふぁ♡ ぁふ、ンぅ……っ」    口の端に残る古傷を執拗に舐られる。皮膚が薄いせいなのか分からないが、ここを責められるとひどく感じてしまう。ビクビクと腰が跳ねて、悦びに胎の奥が濡れている。薫もきっと分かっていて、この傷痕をしつこく舐るのだ。   「か、ぅ……もっと……」 「奥がいいの?」 「んっ、んン゛……♡」    ぐり、と奥を捏ねられ、肇は身悶えた。   「あ、と……こっちも……っ」    豊満な乳房もとい胸筋を、肇は両手で支える。愛される準備が万端に整ったまま放置されていた乳首が、痛いくらいに充血して張り詰めていた。   「……っ」    薫は息を呑む。と思えば、いきなり激しく腰を打ち付けた。肇は大きく仰け反り、引っくり返ったような嬌声を上げる。   「ひぐっ!? んぁああぁ゛……っ!!」 「肇ってば……ほんと、僕を煽るのがうまいよねっ!」 「ぃや゛、だめっ……! いく、いぐ、い゛ぃっ……!!」    勃起した乳首をきつく抓られ、捏ねくり回され、奥を激しく突き上げられて、肇の淫穴は媚びるように収縮する。薫の眼差しに射抜かれて、肇はドライオーガズムに至った。しかし薫は止まるどころか、一層荒々しい腰使いで肇を苛む。   「あ゛ぁっ!? あっ、やだっ、いって、おれもう、だめっ! いってぅ゛からぁ゛!」 「うん、でも僕はまだだから」 「んぁ゛あ♡ あっも、むりだっ、むりっ、いって、ぇう゛……っ!!」    浮いた腰に手を回して抱きすくめられ、密着した状態で最奥を責められ続ける。肇はほとんど動くこともできないまま、弱々しく首を振って涙を散らした。   「ん゛っぁ♡ は、ぁあ゛んっ♡」    抗えない快楽が波のように押し寄せる。無理やり高められ、絶頂から降りてこられない。躰が狂ったようにのたくっている。勝手にナカが締まり、薫の熱を鮮烈に感じてしまって、それをまた快感として受け取って、愉悦に狂う。潤んだ視界に、美しくも獰猛な薫の表情だけが煌めいている。   「あ゛っ、ゃ゛♡ いく、いぐっ、いくっ、ぁ゛ぅ……っ!」    もうずっとイッているのに、健気にそんなことを口走ってしまう。薫は幸せそうに微笑んで、肇の頬を両手で包んだ。   「うん、一緒にイこうね」    深く深く口づけられた。舌を絡めて唾液を吸って、呼吸までをも奪われる。肇も薫が欲しくて堪らなくて、夢中で舌を絡めた。メープルシロップより、アイスクリームより、ドーナツなんかよりもっと甘い、薫の味。全身隈なく愛されて、肇は再び絶頂へと放り投げられた。  胎内に種をたっぷり注がれる。空っぽの胎を満たす薫の熱を感じながら、肇はうっとりと目を瞑った。躰の芯から蕩けそうだった。
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