どうした佐川くん?

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どうした佐川くん?

「お疲れ様でーす」 「はい、お疲れ様」 お店を出て、ロッカーで着替える。 今日は買い物して帰る。 デパ地下で友達と待ち合わせ。 明日、大学の友達の誕生日会をするんだけど、 その食材やらちょっとした紙食器を買う予定。 …ところが、 『ごめん、30分くらい遅れそう』 こんなメッセージが届く。 どうしよう。 遅くなっちゃうから先に雑貨だけ買っちゃおっかな。 そう思って、友達にLINEしてから雑貨コーナーに向かう。 このデパートは、100均よりおしゃれだけど、お手頃な雑貨がそろっている。 紙皿や、飾りつけとかいくつかかごに入れてレジに向かう。 あれ? レジ近くのキャンドルやアロマのコーナーに、 見慣れない服装の見慣れた人を見つける。 「佐川くん」 私が呼びかけると、彼は私に視線を向ける。 「あぁ、あんたか」 なんというか彼らしい塩対応。 「買い物?」 私はめげずに声をかけ続ける。 それにしても、私服もかっこいい。 モノトーンにオレンジのスニーカーがさし色になっている。 「あぁ、妹に頼まれて」 ふーん、妹さんいるんだ。 「あんたは…ずいぶん買い込んでるな」 「あ、うん」 私の籠をちらっと見る佐川くん。 「明日大学の友達の誕生会やるんだ。その買い出し」 「一人で?」 周りを見渡しながら佐川くんが聞いてくる。 「あ、えっと、買い出し係の子が遅れるみたいで…」 そう言った時に私を呼ぶ声が聞こえた。 「まいちゃんお待たせ」 「とおる君」 ちょっと小走りにやってきたとおる君。 私を挟んで佐川くんと向き合う。 「ども」 と、言った後私に、 「知り合い?」 と聞いてきた。 佐川くんは珍しく渋い顔をしている。 いつもなら私以外には営業スマイルくらいはするのに。 「あ、うん。バイト先の人」 私は佐川くんをそう紹介した。 すると佐川くんが 「彼氏?」 と聞いてきた。 「え?」 唐突過ぎて、思わず止まってしまう。 佐川くんって初対面の人にこんな態度とる人だった? 「いや、友達です」 固まっている私に代わって、とおる君がこたえてくれた。 「そ、そっか。ぶしつけに申し訳ない」 そう言った佐川くんはいつもの感じに戻っていた。 「じゃ、私はこれで」 佐川くんはそう言って何も買わずに去っていった。 私は、その後ろ姿をただ見送った。 「まいちゃんさぁ」 「ん?」 「もしかしてあの人のこと好き?」 なんだか楽しそうにそう聞いてくるとおる君に、 私の顔はみるみる熱くなる。 「まいちゃんは相変わらずわかりやすいよね」 「もう、とおる君!」 「ま、あの人もまいちゃん以上だけどね」 「え?」 「いや、待たせてごめんね。それ持つよ」 「あ、うん。ありがと」 「食材もチャチャっと買って、飯でも行こうぜ。 遅れたお詫びになんかおごるよ」 「わーい」 そんな楽しそうな様子を見られていたなんて思わないで、 私は誕生会の準備にわくわくしていた。
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