がんばれ佐川くん

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がんばれ佐川くん

「ちょっと休憩してくるね」 閉店作業中、店長がタバコを吸うしぐさをしてそう言った。 「はーい」 「一人だけど大丈夫?怖くない?」 店長はお化けのジェスチャーをする。 「もう!子ども扱いしすぎです」 「はは…、まぁフロアに一人じゃないしな」 そんなふうにからかいながら、裏口へと向かって言った。 もう、ほんと店長ってば。 どうせ、奥さんに電話したリトイレ行ったりで、 時間かかるんだろうな。 あぁ、ショーケースのカバーおろしてもらえばよかった。 棚の高いところにある、ショーケースカバーに向かって、 背伸びをしてみる。 あぁ、わずかに届かん…。 「何やってんの?」 「え?!」 ふいに声をかけられてビクッとなってしまう。 「何ビビってんの?」 「さ、佐川くん。急に声かけるから」 「いや、ちゃんとショーケースノックしたよ」 「聞こえなかったよ」 佐川くんは、ちょっと私に近ずく。 なんかドキドキしちゃう。 こんな狭い空間に二人きりなん…。 「これ、とるの?」 そう言って、私の横に立つ。 「あ、はい」 思わず敬語になってしまう。 ちょっと私に覆いかぶさるようにして、 ショーケースカバーをとってくれる佐川くん。 なんだか後ろから抱きしめられるみたいで、 心臓がうるさい。 「はい」 「あ、ありがとう」 どうしよう。顔見れない。 「あのさ、」 「は、はい!」 「そんなにビビり散らかされると、こっちもなんつーか…」 「あ、うん、ごごめんなさい。」 気まずい沈黙。 「俺もう上がりなんだけど、あんたは?」 「へ?」 思わず変な声が出てしまう。 「閉店作業、まだ終わんない?」 「あ…、えと」 「…」 「…」 「っ!たく…」 あれ?怒らせちゃった? もしかして、私たちが終わらないと、サービス課の人も帰れない?とか。 「あ、あの、急いで終わらせます」 私は慌ててショーケースにカバーをかけた。 「いや…、そう言うんじゃなくて…ったくどう言やいいんだよ」 なんか…、どうしたらいいんだろう。 「あれ、佐川くんお疲れ」 そこに店長が戻ってきた。 「あ、お疲れ様です。」 「あ、もしかしてこないだお願いしてたやつ持ってきてくれたの?」 「はい」 店長と佐川くんが何やら話し込み始めた。 「ありがとう。助かったよ。うちの子持ってなかったから」 どうやらお子さんの何かのようだ。 「いえ、うちにも余っていたので、もらっていただいて助かります」 「いやいや、ほんとありがたいよ。 そうだ、お礼にこれ、今日までなんだけど」 そう言って、店長は佐川くんに、クーポンのようなものを渡した。 「え?いいんですか?」 「うん。これ、2杯分なんだけど」 「あ、」 言葉に詰まる佐川くんと、にっこり笑って私を見る店長。 「まいちゃんこの後予定ある?」 「いえ…」 「じゃ、佐川くんがければ、2人でいっておいでよ。」 「「え?」」 わたしと佐川くんの声がそろう。 「だめかな?」 店長が私たちの顔を交互に見る。 「スターライトコーヒーだよ」 店長!私の弱点をよくわかっている。 「一緒にく?」 目を輝かせてしまった私に、佐川くんがおそるおそる聞いてくれた。 「い、行きたい…です。」 「よし決まり、じゃもう上がっていいよ。お疲れ」 店長に言われて私たちはさっさと追い出された。
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