がんばれ佐川くん

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着替えてデパートの前で待ち合わせる。 あぁ、もっとおしゃれしてくればよかった。 「お、お待たせしました」 そとに出るともう、佐川くんは待っていた。 「あぁ…」 私を一瞬見て、それからゆっくりと歩き出す。 私もそのあとに続く。 無言のままスターライトコーヒーを目指す。 徒歩2.3分の距離が果てしない。 「あの、店長強引で、ほかに誘いたい人とかって…」 「いない」 私の言葉を遮って即答される。 「あんたも大丈夫なの、俺とその、2人で出かけたりして」 「問題ないです!」 いや、むしろうれしいんですけど。 「いらっしゃいませー」 店内はコーヒーのいい薫りに包まれている。 カウンターに並んでオーダーする。 「このチケットと、パウンドケーキと」 私の方を見て 「あんたもなんか食う?」 と聞いてくれる。 「あ。えっと」 少しメニューを見て、 「じゃ、チョコチップスコーンで」 そう告げる。 「じゃ、それを」 「お支払いは」 その店員さんの言葉に私は慌てて財布を出そうとすると、 佐川くんに制される。 「これで」 と言ってスマホで支払ってくれる。 「かしこまりました」 「スイマセンあとで…」 「いや、このくらいいいから」 なんだろう、やさしいのに塩対応。 でもなんてスマートなんだろう。 注文してるだけなのに見惚れてしまう。 「あちらのカウンターでコーヒーお受け取りください」 そう言われて、受け取りカウンターに。 「あんた、佐藤とか必要?」 「いえ」 「そ」 「お待たせいたしました。オリジナルトールサイズ2点です」 「ありがとうございます!」 わーいい匂い。 「ごゆっくりどうぞ」 平日の夜。 席は割とすいている。 窓に面したカウンタータイプのスツールに二人並んで腰を下ろす。 「お疲れ様です」 コーヒーをちょっと傾ける 「あ、あぁお疲れ様」 あ、佐川くんも応えてくれた。 仕事終わりにほっと一息。 なんか至福の時間。 大人なら、アルコールなんだろうけど、 わたしにはこれが一番ほっとする。 「ふっ」 突然の笑い声にびっくりしてとなりを見る。 え? 佐川くんが笑ってる。 「あ、ごめん。なんかスゲーいい顔してるなって思って。 マジでごめん。」 恥ずかしいけど、それよりも`素'の佐川くんにドキドキしてしまう。 「そ、そんな、どんな顔してた?」 「なんていうか、溶けそうなっていうの?」 佐川くんの笑顔なんて、初めて見るわけじゃない。 わたしに向けられることはないけど、 職場では何度も見ている。 なのに…。 佐川くんの笑顔に、さっきのドキドキがぶり返す。 「ごめん。ここのコーヒー好きなんだな。」 「うん」 「店長に感謝しなきゃだな」 「うん」 しばらく窓の外を見ながら、2人で黙ってコーヒーを飲む。 「チョコチップ食べる?」 「え?」 佐川くんの驚いた顔に、しまった!と思った。 いつもの友達のノリになっちゃった。 「あ、ごめ…」 「一口もらっていいの?」 何その感じ! なんでそんな優しい顔するの? 「う、うん、どうぞ」 私はチョコチップクッキーをひとかけ渡そうとする。 すると佐川くんは驚いたことに口を開けた。 え? これって『あーん』ってこと? ちょっと戸惑ったけど、 待たせちゃいけない、と思って慌てて彼の口にそっとクッキーを入れる。 「初めて食べたけど、うまいな」 そう言って満足そうにする。 意外と大胆。 「俺のも少し食べる?」 そう言いながらパウンドケーキをフォークですくってさす。 「はい」 そう言われて私もあわてて口を開ける。 パク。 どうしよう。 味よくわかんないし、目を合わせられない。 「?」 そっちをみなくても、佐川くんに見つめられてるのがわかる。 「お、おいしい…です。」 「よかった」 佐川くんは何事もなかったように、自分もケーキをほおばる。 “これって、間接キス、だよね” ヤダ。 なんか変に意識してしまう。 「そう言えば、大和くんとはどうなの?」 「え?」 唐突に出てきた大和君の名前に驚く。 「いや、サービス課の人が言ってたからさ」 「え?」 「あんたと大和くんがいい感じだって」 「え?そんな…どこを見てそうおもったんだろ?」 「え?めっちゃ仲良さそうだし。結構噂っぽいよ」 「いやいやいやいや、そんなことみじんもないよ」 だいたい、大和くんだって私のことそんなふうに見てないし。 多分…。
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