がんばれ佐川くん

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「実際、いい感じじゃん」 「そんな、大和くんに申し訳ないよ」 「そう言うってことは、あんたはまんざらでもないってこと?」 あれ?佐川くん機嫌悪くなった? 声のトーンが下がるのがわかる。 「そりゃ、私彼氏いないけど、大和くんとはその、バイト先の人という関係だけだよ。」 大和くんには失礼だけど、誰でもいいわけじゃない。 「へぇ。」 「さ、佐川くんはどうなの?」 「え?」 「なんか昔、年上の女性と付き合ってるって聞いたことあるよ」 「あぁ。昔…ね」 コーヒーを一口飲んで、 「今は、付き合ってる人はいないよ」 と言って私を見た。 「そ、そっか」 またしばらくの沈黙。 「気になる人はいるけど」 「え?」 なんだろ。 佐川くんの気になる人、 知りたいけど、知るのが怖い気もする。 彼の一言一句に心がさざ波のようにざわめく。 「あんたは…、いないの?」 「あ、え、えと…」 「…ふ…いるんだ。わかりやす」 何?もしかしてからかってる? 「か、からかってるの?」 「え?」 「佐川くん。何でそんな…」 あれ…。 わたし…。 「ごめん」 私の顔を見て、佐川くんは慌てている。 自然と目から一筋の涙があふれたのがわかった。 少しうろたえた後、 佐川くんは自分の服の袖を少し伸ばして、 私の涙をぬぐってくれた。 「からかってないから」 そう言ってじっと私を見る。 「だって、なんか塩対応だし、余裕だし。」 なんだかわからないことをつらつらと並べる自分が、 ひどく子供に見えた。 「ごめん。違うんだよ」 「…」 「俺だって、どうしていいかわからなくて…」 「ごめんなさい、その、泣いたりして」 私はまた窓の外の視線を移す。 「佐川くんは、なんか私だけに冷たいよね?」 「…」 「でも、最近は嫌われてるわけじゃないのかなって思ってた」 「嫌いじゃない!嫌いなわけ…」 「そんなふうに言われたら、期待しちゃう」 「え?」 「もしかして、私のこと気になってるのかなって、 だから、冷たくして気を引こうとしてるんじゃないかって…。 そんなことあるわけないのに…」 「はぁ…」 佐川くんが盛大にため息をつく。 「…その通りだよ」 「え?」 「大人げないだろ?カッコわる…。」 どうしよう。 頭が追い付かない。 「あんたのこと、むちゃくちゃ気になってる…よ」 佐川くんはグッとコーヒーを飲み干した。 「周りのやつにもめちゃくちゃ嫉妬してる。」 「…ほ、ほんとに…?」 佐川くんが頭に手を当てながらこくりとうなづく。 「別にいいから、答えとかそう言うの。 あんたのこと困らせたいわけじゃない」 そう言うと私をちらっと見て、 「それ、飲んだら帰ろ」 と言った。 頭が真っ白な私は、ゆっくりとうなづいて、 最後の一口を飲み込んだ。 「ありがとうございました」 店を出た後も無言で歩く。 駅に着くと彼は 「じゃ、また」 と、バス停に向かった。 「はい、」 私も彼の背中を見送ってから改札を抜けた。 ポーッとして頭が働かないのに、 体の芯はうるさくざわめいて、 心はぎゅっと引き締まってる。 なんだよ。 どうしたらいい?
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