佐川くんの変化

1/2

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

佐川くんの変化

「おはよう、久しぶり」 「お久しぶりです」 バイトのシフトがしばらく入っていなかったのは、 奇跡的だった。 佐川くんに会いたい気もするけど、 あったら前より意識してしまう。 まぁ、会わなくても佐川くんのことばっかり考えてしまったんだけど。 「あ、今日大和くんが来るから」 「え?あ、は、はい」 “大和くん” そのワードにも敏感に反応してしまう。 「どうしたの?」 「い、いえ」 「今日俺用事あるから、大和くん来たら交代で帰るからよろしくね」 えぇ? 店長帰るの? 今日、中川さんも7時までって言ってたし、 実質大和君と二人きり…。 そして今日は水曜日。 サービス課から包装紙が届く。 別に気にすることじゃない。 やましいことも何もない。 でも…。 でもやっぱり大和くんと二人きりのところを、 佐川くんに見られたくない。 「じゃ、あとよろしくね」 「大和くん。まいちゃんのことよろしくね」 そう言って、中川さんと店長は同時に去っていった。 自然体。 そう、いつも通り。 そう思うのに、なんだか不自然になってしまう。 大和くんは何も悪くないし、 いつもと同じように接してくれている。 何となく申し訳なく感じてしまう。 「お疲れ様でーす」 さ、佐川くん。 10日ぶりくらいに会う佐川くんに、 思わずときめいてしまう。 佐川くんも私を見つめている。 数秒、ほんとにわずかだけど、 私たちは何も言わずに見つめあった。 「あ、佐川くん。あ、包装紙?ありがとうー」 戸板を開けて大和くんが店舗に顔を出す。 「あ、ども」 相変わらずのテンションの差。 「あれ、店長は?」 「あぁ、今日は私用でもう上がったんですよ」 「え?」 「だから俺は今日店長代理です」 にっこりと笑顔を見せる大和くん。 「あ、何か用事でした?」 何も言わずに店の奥を見た佐川くんに、大和くんが話しかける。 「いや、ちょっとお礼言っとこうかと…」 「あぁそうだったんだ。今日は俺とまいちゃんだけなんだよね」 その言葉に佐川くんがわずかにピクッとなって大和くんを見る。 その目は珍しく見開いている。 「そ、そうなんすね」 「うん」 きっと悪気はないんだろう毛で、 大和くんは少し私に近ずいた。 ほんとに少し、わからないくらい少しだけ、 佐川くんの目が泳ぐ。 私の心臓もうるさいくらい鼓動を打っている。 「あ、あの大和くん私休憩とってもいいですか?」 いたたまれなくなって、私は大和くんに聞く。 「あ、そうだね。うっかりしてたよ」 大和くんは慌てて時計を見る。 「ちょっと自販機行ってきます」 佐川くんと目が合わせられなくて、 急いで裏から自販機に向かう。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加