佐川くんの変化

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社食の横にある自販機コーナーに入って一息つく。 「はぁ」 「おい」 「!」 すっかり気を抜いていたから、かけられた声に驚いてしまった。 「佐川くん」 どうしよう、すぐそばに社食があるとはいえ、 ここはちょっと仕切られた空間だ。 どんどん顔が熱くなってしまう。 「あ、あのこの前は、ごちそうさまでした」 「あ、いや、大したもんおごれなくて…」 「いえ…」 会話に詰まる。 「大和くんと」 「え?」 「今日、大和くんと二人なの?」 思いもしない質問に戸惑う。 「あ、うん」 「…ちっ!」 え? 今舌打ちした? 「…終わり、何時?」 「へ?」 「バイトの上がり、何時?」 唐突な問いかけばかりで頭がグルグルする。 「10時…です」 「終わったらなんか予定ある?」 「え?」 「いや、予定あるなら別に…」 「ない!ないです…」 食い気味に答えてしまって、恥ずかしくなって、 語尾が小さくなってしまう。 「あ、じゃちょっとお茶でもする?」 「え?」 「いや、別にどうしてもってわけじゃ…ないん…だけど…」 首の後ろをかいてうつむく佐川くんをじっと見つめてしまう。 「やっぱ…」 私の視線を感じてそう言いかけた佐川くんを遮って、 「い、行きます!」 と勢い込んでしまう。 「!お、おう」 私の勢いに押されたように佐川くんは目を見開く。 しまった。 はずい…。 「じゃ、終わったら裏で待ってるから」 「は、はい」 佐川くんはそう言って去っていった。 やばい。 これってデートみたいじゃない? どうしよう、無駄に浮かれてしまう。 この前の今日だよ?期待するなっていう方が無理でしょう? あまりに浮かれすぎた私は何も買わずにお店に戻った。 「まいちゃんお疲れー」 「お疲れ様です」 「あと俺閉め作業やるから上がっていいよ」 「ありがとうございます」 「なんか嬉しそうだねぇ?デート?」 「い!いえ違います!」 「はははは…、逆にあやしいほど動揺するねぇ」 自分の正直さが恨めしい。 「でも、まいちゃんているんだ?」 ちょっと意地悪に聞いてくる大和くん。 「いや、だからそう言うんじゃないんで」 ちょっと曖昧にわらう。 「ちょっと残念かなぁ」 「え?」 大和くんにちょっと距離を詰められる。 わたしも後ずさる。 「や、大和…くん」 「まいちゃん今日すごい浮かれてたもんね」
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