大和くんも変だよ

1/1

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

大和くんも変だよ

「まいちゃんお疲れー」 「お疲れ様です」 「あと俺閉め作業やるから上がっていいよ」 「ありがとうございます」 「なんか嬉しそうだねぇ?デート?」 「い!いえ違います!」 「はははは…、逆にあやしいほど動揺するねぇ」 自分の正直さが恨めしい。 「でも、まいちゃんているんだ?」 ちょっと意地悪に聞いてくる大和くん。 「いや、だからそう言うんじゃないんで」 ちょっと曖昧にわらう。 「ちょっと残念かなぁ」 「え?」 大和くんにちょっと距離を詰められる。 わたしも後ずさる。 「や、大和…くん」 「まいちゃん今日すごい浮かれてたもんね」 「いや…そうかな…」 じっと見つめられてしまう。 もう後ずされない壁際。 閉店後だから、お客さんは来ないけど、 他の店舗や従業員さんは当然ながら残っている。 戸板と暖簾のその先には誰かいる。 でも、外からは見えないこの空間が、 わたしに緊張感を与える。 「食事でも行くの?それとも彼の部屋?」 「いや…、ほんとに…そうゆんじゃなくて」 「俺も誘っちゃダメ?」 俗に言われる犬系男子の大和くん。 ちょっと覗き込むようにそう言われたら、 ときめいてしまう女の子は多いだろう。 この状況に私だってドキドキしないわけじゃない。 だってこんなふうに男の人に詰められることなんて、 経験ないから! 「ねぇ!」 店裏の従業員出入り口が開く。 声をかけながら入ってきたのは佐川くんだった。 「あーあ」 その姿を見た瞬間、 大和くんはそう言いながら私から離れた。 「あれ?佐川くん何しに来たの?」 ちょっとめんどくさそうにそう聞く大和くん。 「何してたんだよ?」 大和くんの言葉を無視して、 佐川くんがたずねる。 「別に、ちょっとお話」 大和くんはニコッと笑う。 「てか、佐川くんは何しに来たの? 関係なくない?」 「…」 なんだか険悪な空気が流れる。 耐えられなくなって、わたしは 「佐川くんとお茶行く約束してて、 わたしが遅かったから迎えに来てくれたんだよね? ね?佐川くん?」 そう言って取り繕う。 「へぇ、いいなぁ」 二人は視線をそらさない。 どうしよう。 「あ、俺もすぐ閉店作業終わらせるから、 一緒に行っていい?」 大和くんは佐川くんではなく、私に聞いてくる。 えぇぇ? ど、どうしよう。 困って佐川くんを見る。 佐川くんはじっと大和くんを見ている。 「えっと…」 「ごめんけど、遠慮してもらっていい?」 困っていると、佐川くんがそう言った。 「えぇ、みんなのほうが楽しいじゃん。 え?それとも二人ってもしかして関係?」 佐川くんは一瞬ちらっと私を見て、 「いや、そうじゃないけど」 「だったらいいじゃん!ね?」 相変わらずの大和くん。 正直私は佐川くんと二人でいきたい。 でも、それはそれで緊張するかも…。 そんなふうに揺れている。 でも佐川くんは、 「悪いけど、今日は遠慮してもらえる?」 とはっきり断った。 「今日はまいちゃんと二人で行きたいから」 その言葉に体の中がふわふわする感覚になる。 くすぐったい。 「…それってデートみたいじゃん」 大和くんの言葉に顔が熱くなる。 「どうとってもらっても構わない」 そう言い捨てると、佐川くんは私の手を取って歩き出した。 「…あぁ、まじかぁ、まいちゃんお疲れー」 「あ、お、お疲れ様です」 わたしはそのまま従業員通路へ連れ出された。 「ごめん。あいつが来る前に急いで着替えて、外で待ってるから」 佐川くんは私の目も見ずにそう言って私の手を離してあそとへと歩き出した。 わたしは少し自分の手を見つめた後、 急いで更衣室へ向かった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加