佐川くんとわたし

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佐川くんとわたし

デパートの外で会うのは新鮮。 今までの塩対応が嘘みたいに、 佐川くんは優しさにあふれた人だった。 わたしにだけは特別って感じかがたまらん(笑)。 「ん?何?」 「あ、ううん何でもない」 ついつい見惚れちゃう。 「まい、今週はシフト入ってるの?」 名前呼びも良き! 「うん、金曜と土曜日」 「そか…」 今週は水曜日お休みなんだよね。 同じデパート内でもなかなか会う機会ないから、 水曜日の定期訪問楽しみなのは私も一緒。 だけど、あからさまにさみしそうにする佐川くんが、 かわいらしすぎて尊い。 こうして仕事終わりの佐川くんと会える時間は、 本当に幸せ。 付き合ってから1年が過ぎようとしている。 それでもまだまだ佐川くんの新しい一面を日々発見している。 そして思い出はどんどん増えていく。 佐川くんの部屋に行った日。 佐川くんとドライブデートした日。 佐川くんのお誕生日。 全部鮮明に覚えている。 初めてキスした日は、全身が心臓になったみたいだった。 その時教えてもらった佐川くんの過去。 わかってた。 佐川くんは私がじゃないってことも。 佐川くんは私には塩対応だったけど、 他の人とは普通に接していたと思う。 けど何となくちょっと距離があるというか、 そんなふうに感じていた。 清野さんたちが言ってた“野良猫”感だ。 でもそ態度には理由があった。 昔の彼女に浮気されたりしたから。 『女はしたたかで賢い。 年の功だけ経験を重ねてるんだなって。 年上の女と付き合うってことはそういうことなんだなって』 そう言って笑っていた。 苦い思い出なのかもしれないけど、 それって佐川くんが純粋で素直ってことだよね。 わたしはそういう佐川くんも大好き。 「でもそういう人たちを渡り歩いてたら、 佐川くんだって経験豊富になったってことだよね?」 「ん―どうかな?」 「だとしたら私が佐川くんに騙されそうだよ」 ちょっと拗ねてそう言った私に、 「俺、そういうのマジで苦手だから」 と言って頭ぽんぽんしてくれた。 それもわかってきた。 佐川くんは嘘が苦手なんだって。 それでも恋する私は、 佐川くんになら騙されてもいいかも、 なんて思ってしまう。 そんなこと言ったら、佐川くんは怒るだろうけど。 恋愛において私にとって佐川くんは high society(ハイソサエティー)だ(笑)。 「でも、俺がもし経験豊富だとしたら」 そう言って私を見る。 「それは、まいに会うために必要なことだったのかも」 そんな恥ずかしいことを平気で言える佐川くん。 この人にはかなわない。 と実感する日々だ。
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