オフの私 オンの彼

1/1

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

オフの私 オンの彼

今日はバイトはお休み。 大学の友達何人かで、デパートに来ている。 今度誕生日を迎える友達のプレゼント選びだ。 「あぁ、文房具って言っても種類多すぎて悩むねぇ」 「そうだね、色も豊富だし」 友だちが今欲しいものは文房具らしい。 ポールペンがいいらしいんだけど、 このデパート、まじで種類も豊富。 どっかのタレントじゃないけど、 「200種類あんねん」 と言いたくなる。 「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」 店員さんが声をかけてくれる。 「あの、友達にボールペンをプレゼントしたいんですけど」 「おすすめのとか、人気のってどんなのですか?」 私たちの超絶アバウトな問いに、 その男性定員さんは丁寧に答えてくれる。 おかげでスムーズにプレゼント選びは進む。 「ではこちらお包みしますね。 お会計はこちらでお願いいたします。」 にこやかな定員さんに導かれて、レジカウンターへ向かう。 カウンターの奥には包装してくれるテーブルが。 そしてそこには— さ、佐川君…。 そうか、サービス課の人は、こういう仕事もするのか。 「こちらプレゼント包装でお願いします」 店員さんに言われて、佐川君がこちらを向く。 目が合った。 そう思ったので、一応ぺこりと頭を下げておく。 「いらっしゃいませ。かしこまりました」 え? えぇぇぇぇぇ? 今にっこりした? 営業スマイル? この人ほんとに佐川くんだよね? 双子? 私がそう思うほど、いつもの佐川くんと違っていた。 「お客様、包装紙はどちらがよろしいでしょうか?」 ほんとに流ちょうな接客に戸惑ってしまう。 「まい、どれにする?」 友だちに聞かれて、慌てて包装紙に目を向ける。 「あ、う、うんそうだなぁ」 「私はこの水色のとかいいかなぁ」 「そうだねぇ」 「う、うん、いいと思う」 ううう、緊張する。 「かしこまりました。そうすればおリボンはこちらの藤色が会うと思うのですが、いかがでしょうか?」 さ、佐川君が私を見ている。 なんという幸せ。 その視線に撃ち抜かれて何も言えない私の代わりに、 「はい、よろしくお願いします!」 と友達が答えてくれた。 「かしこまりました。ではこちらの番号で、しばらくお待ちください」 そう言って頭を下げる佐川くん。 包装してもらっている間、友達はその辺を見て回っていたけど、 私はレジ横のベンチに座って、 こっそりと佐川くんの姿を盗み見ていた。 凛々しい。 はぁ、来てよかった。 それにしてもほんとに、普段からは想像できない完ぺきな接客。 プライベートであの笑顔と対応をされたら完全に、 『ほれてまうやろぉぉお!』 だ。 「お待たせしました」 あっという間に包装されたボールペンをレジで受け取る。 あぁ、幸せな時間だったなぁ。 「ありがとうございます」 「いえ、こちらこそありがとうございました」 そう言って頭を下げる佐川くん。 あぁ、離れがたい。 でもわかっている。 これは私が『お客様』だからの対応だ。 ちょっとだけ現実に戻って、 デパートを後にした。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加