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淡い青紫色の薔薇
広尾の精神科に通院していたころ、道端の生花店でアンニュイな色合いの薔薇を見つけた。
淡い青に僅かな紫が混じったような柔らかく悲しげな薔薇の色。店頭にはきっとバラエティ豊かな生花が売られていたはずだが、淡い青紫色の薔薇だけが目に入った。
通院ではいつも母の付き添いがあったから、帰りにねだって買ってもらった。その薔薇を一本だけ。
家に一つだけある花瓶を引っ張り出してきて、自室で机のわきに生けた。柔らかい花弁に触れてみる。なんて美しい色だろうと思った。
どうしてこれほど心を掴む色合いなのに滅多に売られていないのだろう。生花店を見かけたら薔薇を眺めるほどには興味があるが、淡い青紫のものは見たことがなかった。
当時の心境を投影して見ていたのかもしれないが、静かに泣いている哀しみが立ち現れたような薔薇だった。
美しいものに出逢って心が震えるとき、その奥に潜む哀しみに共鳴しているのではないかと考えるようになったのは、あの薔薇と出逢ったことも影響しているかもしれない。
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