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サルバドール・ダリとルネ・マグリットが好き
鋭利なタッチの絵画が好きだ。色と色とを明瞭に切り分ける境界線を観ていると痛みが伝わってくるような。
私は美術に明るくない。たまに美術館に出かけてもあまり楽しめない。ただ、高校の現代社会の授業でサルバドール・ダリの『記憶の固執』を知ったときには強く惹きつけられた。有名な、ぐにゃりと曲がった時計の絵だ。
画集からコピーして手元でしばらく持ち歩いていたが、統合失調症の調子の波が大きかった一時期に、その画風がなぜか受け付けなくなり処分してしまった。ダリの偏執性がしんどかったのかもしれない。
一度は目にするのも苦しいほど嫌になった『記憶の固執』だが、今でも好きな絵画を考えると真っ先に思い浮かぶ。鮮烈で美しい絵だと素直に思う。ふわっとしたニュアンスが存在しないところが良い。
サルバドール・ダリに並んで好きなのがルネ・マグリットだ。どちらもシュルレアリスムの画家だから、私の好みがそこにあることも分かる。
マグリットは統合失調症の入院中に、同じ部屋で仲良くなった友人に教えてもらった。絶対合うと思うよ、とすすめられた。当時はマグリットを調べる余裕がなかったが記憶には残り、ダリを調べるとマグリットも出てくるため、ときどき接するうちに好きになった。
マグリットは『恋人たち』の顔が隠されたふたりなど、ゾッとするようなテーマ性を感じる作品が有名だ。
マグリットの絵画で最近好きなのは『大家族』で、荒々しい海のうえで一羽の大きな鳥が飛び、その鳥の身体全体は晴れた空で描かれている。不穏な海の上空とうららかに雲が浮かぶ青空が、鳥の輪郭で切り分けられている。
色合いの美しさと明瞭な線の鮮やかさ、不穏と平穏が一枚の絵のなかで見事に同居しているのも魅力的だ。
私は荒れた海が好きで、実際に見かけると眺めていたくなる。マグリットの『大家族』には、家族の悲しみや絶望が荒れた海に、喜びや希望が一羽の鳥とその身体の穏やかな空に、象徴されているように感じる。
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