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14時00分
黒板の上の時計は14時00分を指している。
もうあまり時間がない。あれから30分間隔で決心を変えてきてしまった。
どのような結果になろうがそれを受け入れる。今日はそう決めたはずだ。僕は何を恐れているのか? この状況でもっとも恐ろしいのは気持ちを伝えられないことだ。
ただ一緒にいることの幸せ―――それは想いを伝えられた人だけが迎えることのできる安息の時間だ。
僕はまだそれを手に入れていない。それどころかまだ何もしていないじゃないか。このままでは無意味な宿題をやっただけで終わってしまう。
「日暮さん―――あの……」僕は意を決して立ち上がった。
彼女の席は僕の席よりは前にある。
彼女は振り向きざまに髪をかき上げた。
その左手が微かにふるえている。僕の声もふるえていたかもしれない。
その彼女の仕草は扇情的であり、美しい。この世界は今、僕と彼女しかいない。
スバルとあかねのこのふるえは男女間の恋愛的緊張感だけではない。時間的プレッシャーもある。
「何?」できるだけ普通に。あわてないあわてない。時間的に見てこれが最後のチャンスだろう。彼の邪魔をしてはいけない。あくまで冷静に、平静に、かつ自然に私は振り向く。
これでダメなら―――最後は私が―――
「日暮さん! 好きです! ずっと好きでした!」目があった瞬間に告白された。
思っていたのとは随分違う。ロマンチックなかんじでもない。
でも―――朴訥で不器用な彼の誠意が伝わって来た。母の男遊びが原因でクラスで居場所がなかった私を唯一相手してくれたのは彼だった。
陰湿なイジメにもあったが、彼が物申したおかげでイジメの対象は彼になった。
「ごめん。かなり唐突なんだけさ。もう何も思いつかなくて。いろいろ考えたんだけどさ。もう最後は自分の気持ちを素直に言うしかなくて。ホント、いきなりでごめん。迷惑だよね。こんな事、急に言って。もうちょっとかっこいい感じで言えたら―――。もうちょっと僕が背が高くてかっこよかったら―――。そうしたら日暮さんも喜んでくれたのかな? なんて―――」スバルはあかねを見つめることができず、目をそらしながら一気にまくし立てた。それは恥ずかしさを誤魔化すためのものだった。誤魔化しついでにいろいろと言い訳がましいことまで口走ってしまう。これが非モテ男の性というヤツだ。
そんなスバルの言葉が急に止まる。あかねの目から一筋の涙が零れていたからだ。
「―――遅いよ、バカ―――」あかねはやさしくも照れ隠しをするように微笑む。その表情は桃色に染まっている。
黒板の上の時計の針は14時30分を示そうとしていた。
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